シンガポール建国50年、人権犠牲に奇跡的発展 台頭する「批評家階級」に海外注目

 9日、シンガポールは建国50周年を盛大に祝った。わずか750平方キロメートルの都市国家は、建国の父であるリー・クアンユーの開発独裁とも言える政治体制のもと、奇跡的な経済発展を実現し、世界有数の豊かな国となった。海外メディアはその成功をたたえつつも、今後の課題を指摘している。

◆半世紀でトップレベルの豊かな国へ
 CNNは、シンガポールが世界第4位の金融センターであり、アジアで唯一、スタンダード&プアーズ、ムーディーズ、 フィッチ・レーティングスの主要3社すべてから、AAA格付けを受けている国だと紹介。また、100万ドル以上の資産を持つ人の割合がアジアで最も高いとも述べている。

 英エコノミスト誌は、シンガポールの指導者たちは、小国であるという弱みが現在の発展につながったと見ていると指摘。脆弱性、天然資源の乏しさ、多民族であるが故の共通の歴史の欠如を意識し懸命に努力してきたからこそ、シンガポールは地域に欠くことの出来ないビジネスハブとなり、明確な国民意識を作り出すことができたのだと述べ、想像をはるかに超える発展を高く評価している。

◆成長の陰に問題も
 そのシンガポールにも、50年を経て、さまざまな変化が現れている。Capital Economicsのシニア・アジア・エコノミスト、ダニエル・マーティン氏は、シンガポールの昨年のGDP成長率が2.9%であったと述べ、過去10年の平均は5%を超えていることから、成長が鈍化していると指摘する。同氏は、今後の成長率は2~3%の先進国ペースとなり、以前のような急激な生活水準の向上を国民が期待できなくなると述べる(CNN)。

 エコノミスト誌は、移民の増加も政治的な問題になっていると指摘。シンガポールの人口増加は、ほとんどが移民によるもので、政府は30年間に渡り子作りを奨励しているが出生率は上がっていないと述べる。フィナンシャル・タイムズ紙は、移民がシンガポールの発展に貢献したが、収入の不平等やインフラへの負担などの問題を招いたと指摘。国民から移民政策への不満が出て、現在は受け入れペースを遅くしているが、高齢化も進んでおり、労働力の面でどう対処するのかと疑問を投げかけている。

◆ソーシャルメディア世代の台頭
 さらに注目されるのが、政府と国民の関係だ。シンガポールは、人民行動党(PAP)による事実上の一党独裁体制のもと、成長を遂げてきた。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)に寄稿したジャーナリストのマイケル・シューマン氏は、「市民は多くの基本的人権を奪われているが、経済は活気に満ちている」とその体制を表現する。2015年の世界報道の自由度指数で、シンガポールは180カ国中153位であり、主要メディアは厳しく政府にコントロールされている(CNN)。

 しかし、ソーシャルメディアの登場によって、自分の意見を述べるシンガポール人が増加。エールNUSカレッジの准教授、ラフル・サガール氏は、「主張する新しい批評家階級」が登場し、移民、不平等、人種などへの評論をFacebookで拡散していると指摘。中にはとても筋の通ったものもあり、政治家に影響を与えることもあると述べている。同氏は、声の大きな者に世論が揺さぶられる危険性を指摘しつつも、ソーシャルメディア世代の出現で、今までの淡々とした実用的な統治体制が変わる可能性もあると示唆している(CNN)。

Text by 山川 真智子