“費用オーバーに税金使えない”ボストン、24年五輪招致断念 「市民の完勝」と現地誌

 27日、2024年夏季五輪・パラリンピック招致に名乗りを上げていたボストンのウォルシュ市長は、大会開催費用に市が全額責任を持つことはできないとし、事実上の撤退宣言をした。これを受けて米国オリンピック委員会(USOC)は、2024年の候補地から正式に同市を除外したと発表。米メディアからは、莫大な費用が掛かる五輪のあり方自体を、今こそ再考すべきという意見が出ている。

◆市民の声で、立候補取り下げに
 米ネイション誌は、五輪は経済効果がある愛国的祭典だとうたう一部の有名人や有力者がボストンの招致活動を率いてきたと述べる。撤退表明時に「オリンピックの費用超過のために、納税者の金は使えない」と、あたかも自分は反対だったかのように述べた市長もその1人であったと指摘。いくつかの市民団体が反対の声を上げるまでは、まるで暴走列車のように計画は進んでいたと表現している。

 反対派の市民団体は、草の根運動やソーシャルメディアを駆使して賛同者を増やし、金、大手メディア、市長を後ろ盾にした招致推進派のうそを暴いたという。結果として、世論調査では反対派はしぶとく50%以上を維持。USOCの会長の「招致を勝ち取り、素晴らしい大会にするために必要な市民のサポートがボストンにはなかった」、との発言を引き出したのは、財政負担を懸念し、真剣に市の未来を案じる市民であったと述べている(ネイション誌)。

 また同誌は、今回はボストン市民の完勝であり、オリンピックスポーツを愛するすべての人々へのポジティブな進展であったと評価した。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)に記事を寄せたジャーナリストのジェイソン・ゲイ氏は、もともとボストンには地元に根付いたアメフト、野球、バスケット、アイスホッケーなどのチームがあり、いまさら五輪で一体感を感じる必要はなかったため、市民の間で「ぜひとも五輪を」という気持ちが盛り上がらなかったと指摘している。

◆五輪の費用は経済効果を吹き飛ばす?
 ウェブ誌『Boston.com』は、五輪誘致を望まない傾向は、他の国でも見られると指摘。また、過去数年のオリンピックのイメージはあまり良くないと述べる。2008年の北京、2014年のソチでは、法外なコストによってその問題が強調され、広く歓迎された2012年のロンドン大会でさえ、大幅な費用増加が話題となった。同誌によると、オリンピックのような巨大イベントは経済効果のためにリスクを取る価値はない、という研究結果も出ているという。

 2022年の冬季大会では、オスロ、ストックホルム、ポーランドのクラクフがすでに立候補を取り下げており、国際オリンピック委員会(IOC)は、招致への抵抗の高まりを認識。昨年には、より安く五輪を開催できるよう改革案を可決したが、開催都市を持つ国の政府が財政保証することを、いまだに求めている(アメリカは連邦制のため、市か州が保証)。まさにボストンの場合は、この条件が納税者である市民の不安を掻き立て誘致反対の流れとなり、立候補の際USOCから求められていた財政保証契約にサインできないと市長が判断したため、立候補取り下げとなった(Boston.com)。

◆今のままでは五輪はなくなる?
 ボストングローブ紙でコラムを担当するエバン・ホロビッツ氏は、五輪開催の最大の障害はやはりコストだと指摘。五輪の荘厳さをいくらか犠牲にするかもしれないが、より小規模で簡素化した会場にすることも一つの方法だと述べる。また、既存の会場を利用したり、主要施設が整っている過去の開催地を選ぶことも選択肢の一つであり、必要な会場を確保するために複数の都市で開催することも検討すべき、と主張する。

 ホロビッツ氏は、莫大なコストと納税者のリスクを考えれば、今のままでは五輪誘致に乗り出す国は減ってしまうだろうと危惧している、2020年の東京五輪でも、すでに費用の膨張が問題となっているだけに、今後の開催に関しては同氏の提言が活かされることを期待したい。

Text by 山川 真智子