上海株乱高下:揺らぐ共産党への信頼 政情不安に発展する可能性を欧米専門家指摘

 急落を続けていた中国の株式市場は先週末大きく値上がりし、一時はピーク時から32%安まで下げたが、同25%安で週末を迎えた。これでひとまず危機は回避されたと見る向きもあるが、全上場企業の半数近い約1400社が自社株の取引を停止しているとされており、予断を許さない状況が続いている。

 小休止といったこのタイミングで、多くの海外メディアが今回の上海株乱高下を総括している。その中には、これで株価に支えられた中国の経済成長神話が崩れ、中国共産党の信用が危機に瀕しているとする見方や、習近平国家主席の指導力に疑問符がつき始めているという報道も見られる。今後も株価が不安定な動きを続ければ、中国共産党の一党独裁支配が大きく揺らぐという見方が強いようだ。

◆個人投資家が党に損失の責任を問う展開も
 ドイツメディア、ドイチェ・ヴェレ(DW)は、今回の株価暴落とそれに対する過度な介入により、中国共産党に対する人民からの信用が「危機に瀕している」とする専門家の見方を紹介している。

 DWのQ&Aに答えているベルリンの『メルカトル・中国研究所(MERICS)』のサンドラ・ヒープ氏は、「もし、近いうちに株式市場に持続的な上昇傾向が見られなければ、政治に対する不満が噴出するだろう」と警告する。その場合、9000万人とも言われる個人投資家たちが共産党に失望し、自分たちの損失に対する責任を問うことになると予想。「共産党の信用は危機に瀕している」と述べている。

 また、同氏は、株式市場を安定させることに失敗すれば、既にスローダウンしている経済成長率がさらに下がるとも指摘。特に株価上昇の恩恵に依存してきたテクノロジー系の企業は、大きな影響を受けると見ている。そして、「経済成長率がこれ以上下がれば、経済発展に基づいた支配を長年続けてきた党が、何らかの政治的抵抗を受ける可能性がある」と述べている。

◆下落傾向がさらに数週間続けば「恐ろしいことになる」と米識者
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)も、株価急落で「習主席の指導力に疑問符」「思わぬ反発に直面」と報じている。同紙は、習主席は国内の株式市場が高騰するにつれて信頼を集めていったが、「ここに来て、市場の動揺は、同主席の強制的な支配に対する異例の名指しの批判を招き、広範な経済目標をリスクにさらしている」と記す。

 WSJは、その批判の一例として、中国・清華大学の社会学者、孫立平教授のSNSでの発言を取り上げている。孫氏は「株式市場の崩落は、習氏の高度に中央集権化された統治アプローチの重大な欠陥を露呈した」と指摘。習主席の「金融上の専門知識の欠如」と「部下たちの間で蔓延する上司への服従意識」を批判した。同氏は「権力には限界がある」とも書いており、市場への政府の過度な介入にも批判的だ。

 同記事中で、米カリフォルニア大学サンディエゴ校の中国専門家、ビクター・シー氏は、習主席がこの2 、3年標榜してきた市場の自由化が、「最近数日間の劇的な政府の干渉とともに、完全に消え去った」と述べている。また、米ブルッキングス研究所の上級フェローで中国指導部に関する著書もあるチェン・リー氏は「現在は、一般市民の(党に対する)信頼度と指導部の能力が試される時期であり、国際社会が中国をどうみるかに関する試練の時でもある」とし、「今週の市場は極めて悪かった。これがさらに数週間続けば、恐ろしいことになる」と警告している。

◆「3週間で15年分の全てを失った」
 一方、ワシントン・ポスト紙(WP)は、現地の個人投資家たちの視点から今回の暴落を捉えている。当局の追求を恐れ、「タオ」という苗字だけを明かした32歳の投資家は、「今ようやく、なぜ株で失敗した人たちがビルから飛び降りるのか理解した。残高ゼロになった自分の口座を見て、彼らと同じ気持ちを実感しているよ」とWPに語っている。同氏はまだ上海市場が上昇機運にあった今年4月、10万元(約1万6000ドル)を投資し、すぐに30%の利益を上げた。その後、借金をして60万元を追加投資したが、すぐに1日で20万元の損失を出すペースとなり、全てを失ったという。

 公園でひなたぼっこをするよりもよほど刺激的だと、毎日開場から閉場まで市場にいるという60代の女性は、「中国の株式市場は、私のような小さなジャガイモでいっぱいだ。株で10元作れば今日は良い食事ができる、とね」と語る。しかし、くり返される当局の介入やルール無視の市場の動きに、さすがに堪忍袋の緒が切れたようだ。「中国市場には、一定のパターンはない。誰にもその仕組みは分からない。公式な規則が何もないのだから。私は15年株をやっているが、この3週間でその全てを失った」と怒りをにじませた。

 クレディ・アグリコル証券の尾形和彦チーフエコノミストは、現在の中国の金融問題や景気を巡る懸念は、投資家にとって「注視すべき真のリスク」だと語る。しかし、必要となれば主要国による外部からの政策対応もありうるとし、「世界の終わりではない。いずれリスクオンに戻っていく」としている(ブルームバーグ)。一方、WPのインタビューに答えた前出のタオ氏は、「以前は、自分も周りの仲間たちもこの国の未来に自信を持っていた。でも、最近はこの国の運命そのものが賭けの対象になっているよ」と危機感をにじませている。

Text by 内村 浩介