ドイツの大学授業料、留学生も無料 卒業生4割が5年納税でペイ 少子化対策になる?
教育の質の高さでは定評のあるアメリカの大学だが、授業料も記録的高さとなっており、多くの学生が進学のため、ローンを利用するのが実情だ。そんなアメリカで、縁もゆかりもないドイツの大学を目指す若者が増加している。
◆授業料上昇で、公立大進学も困難
英BBCによれば、アメリカの大学の授業料は、地元の公立大に進学した場合でも年間9000ドル(約110万円)以上、私立に至っては、5万ドル(約600万円)を超える場合も珍しくない。進学資金を借金に頼ることはやむを得ず、今や全米の学生ローンの残高は、なんと1兆3000億ドル(約160兆円)に到達している。
BBCは、高額な授業料に見切りをつけ、ドイツのミュンヘン工科大学を選んだ、サウス・カロライナ州出身のハンター・ブリス君を取材している。実はドイツの大学は、外国人でも授業料が無料。学期ごとに彼が大学に支払う額は111ユーロ(約1万5000円)で、これを払えば市内での交通費は無料となる。家賃、医療保険を含めた1か月の生活費は620ユーロ(約8万5000円)ほどで、母親からの仕送りで賄えている。もし、地元の公立大に進んでいたら、母子家庭出身のハンター君は、ローンに頼らなければ大学には行けなかったはずだ。
◆授業料無料でも社会にはプラス
ハンター君のように、ドイツの大学で学部生、院生として学ぶアメリカ人は4600人以上で、この3年間で20%増加しているという。学費が無料に加え、英語で行うさまざまなプログラムが用意されていることも、大きな魅力だ(BBC)。
ドイツでは、少子高齢化が深刻な問題となっており、外国人学生を受け入れ、卒業後もドイツで働いてもらうことで、労働力を補い、起業を促し、活気ある社会を維持したいと考えている。ベルリン市では、大学生1人につき、年間で平均1万3300ユーロ(約185万円)を税金から投入。総額で年間3億3000万ユーロ(約460億円)を外国人学生のために支出しているが、「もし40%の学生が卒業後5年間ドイツで働き税金を納めてくれれば、十分埋め合わせは可能だ」と市の関係者は述べる(BBC)。
BBCの取材を受けたアメリカ人女子学生は、自分の経験を通じ、自国の教育のコストの高さに疑問を持ったという。「いつか自分の子供たちが母国で莫大な借金を抱えることになるなんて、想像もできない。ドイツに来れば借金なしで学生として安く生活できるのに」という彼女のコメントを紹介しつつも、高額な学費でも有名校に殺到するアメリカの現状では、ドイツのようなシステムを作る動きは、当分起こらないだろうとBBCは述べている。
◆卒業後の現実は厳しい
一方ドイチェ・ヴェレ(DW)は、外国人学生受け入れで労働力を確保しようとする政府の方針が、うまく機能していないことを報じている。
ドイツの同化移民専門委員会(SVR)によれば、多くの外国人学生は、卒業後ドイツで就職したいと考えているが、仕事を見つけるのに苦労しているらしい。その最大の理由は、英語コースで学んできた外国人学生が、ドイツ語をうまく話せないことだという。また、多くのドイツ人事業主が、外国人採用には慎重で、ドイツ人、EU出身者を優先して採用する傾向があること、外国人学生の就職先は大学の専攻に関連した業種であることが求められるため、就職先が限定されてしまうことなどが、問題にされていると(DW)。
SVRは、雇用者たちが外国人学生の能力を理解していないと指摘。有能なエンジニアや科学者でさえも、他国に逃がしてしまっていると苦言を呈している(DW)
◆日本はやはり内向き
さて、国際教育の専門家のためのサイト、『PIE News』 によれば、全国大学生協連が日本の大学生3583人を対象に行った調査で、68%が留学してみたいと答えたらしい。また、英語の習得には関心が高く、91%が今後は英語がより必要な社会になると答えている。
しかし、卒業後海外で働きたいと答えた学生は、わずかに14%。調査は「グローバル意識は高いが、実際のところ、国内志向は維持されたまま」と指摘しており、留学の目的が、英語力を高め、国内での就職を有利にするためであることを示唆した(PIE News)。