新冷戦にオバマ大統領の自由貿易世界は実現するか 自由市場派vs保護派でTPPとTTIP足踏み
TPP(環太平洋経済連携協定)やTTIP(環大西洋貿易投資連携協定)交渉で大統領に大きな権限を与える大統領貿易促進権限(TPA)は、今月12日に関連法案が否決され、再採決は最長7月末まで延期となった。一方、10日に予定されていたEU議会のTTIP承認の採決も延期され、こちらも再採決は数週間後で、日程の目途はまだ立っていない。米・EUいずれにおいても成立を阻んだ主因は雇用保護問題であり、市場主義と保護主義の対立は、次第に「新・冷戦構造」とリンクし始めているように見える。
◆下院のTAA法案再採決は7月30日まで延期
米下院本会議は6月12日、TPP関連法案を二つに分けて議決を行った。一つは大統領に通商一括交渉権を付与するTPA法案、もう一つは自由貿易拡大に伴う雇用失業対策を行うTAA法案で、上院では5月に一括可決した。しかし下院は、TPA法案は可決したものの、元下院議長の民主党ナンシー・ペロシが雇用保護優先の立場を訴えたこともあって、TAA法案は否決となった。
エコノミストのグループ紙の、米連邦議会報告の専門紙ロールコールによると、再採決は当初16日に予定されたが、議論の枠組の再検討から行うため、8月の議会休会直前の7月30日まで延期された(6月16日)。
再採決が決まって、オバマ大統領は「この種の合意は21世紀の経済の現実を反映している。中国のような国ではなくアメリカのような国が書いたルールが、世界経済のルールを確かなものにする」と語った(ポリティコ6月12日)。また、その声明で、「下院はTAAを可決しなければ、より多くの中産階級労働者が、世界経済に参加して成功する機会を得るのが遅くなる」と主張した。
◆EU議会でも6月10日にTTIP採決を延期、「圧力のせい」と賛成派
一方、下院がTAA法案を否決する2日前の10日、EU議会もまた、米-EU間で進められてきたTTIP法案承認の採決を延期していた。独立系メディアEUレポーターによると、採決延期は賛成183票、反対181、棄権37で決定された。公式筋が言う延期の理由は、現交渉案に対して200以上の修正案が出ているので、将来の本会議の前に貿易委員会が改善を検討できるよう投票を延期すべきというもので、再採決は数週間後と言われている。
実際の論点は、EUが設けている雇用保護、環境規制、食品安全規制をTTIPが削除することと、投資家・国家間の紛争解決(ISDS)条項が含まれていることである。反対派が問題にしている点はTPPにも共通する。ヨーロッパ全土で200万人以上のTTIP反対署名が集まった。それに対し、EU議会保守派の貿易改革派スポークスマンのエマ・マクラーキンEU議会議員は、「議会は投票に応じる用意ができていたが、シュルツ議長が社会主義者の体面を保つために引っ張った」「我々はTTIPがヨーロッパ全体の消費者や中小企業に真の利益をもたらす可能性を秘めていると訴えていく」(6月10日)と、保護的な考えを「社会主義者」と決めつけて対決姿勢を鮮明にした。
◆自由市場派vs.保護派の対立が「新・冷戦構造」とリンク?
採決延期が決定された10日、EU議会はウクライナ問題等を巡って、EUとロシアとの戦略的パートナーシップを破棄する決定も行っていた(ロシア・ビヨンド・ザ・ヘッドライン6月15日)。EU議会のTTIP推進派は、ロシアとの友好関係を断つのと引き換えに、TTIP採決を延期してバランスをとったことを批判したとも言える。
フィナンシャルタイムズ(5月18日)が指摘するように、TPP/TTIPは、欧米や日本が形成している「リベラルな国際秩序」に、中国やロシアも統合していく政治的意図が秘められている。しかし現実には、アメリカ連邦議会やEU議会においても統合は行われていない。一方、中国はすでにアメリカも含むTPP交渉参加国の最大の貿易相手国である。インドや韓国の最大の貿易相手国でもあり、ロシアを始めとするユーラシア経済連合国も中国との同盟強化に向かっている。ウォールストリートジャーナル(6月16日)によれば、アメリカでは冷戦時代のソ連に対して行ったような中国封じ込めが囁かれ始めているというが、中国経済の規模が大きすぎ、現実的な議論となっていないようだ。
世界はすでに二大陣営の対立と強い方による統合支配という構図を脱して、相互依存性を強めている。TPP/TTIPは本来、参加国が協議して互恵を融通し合う関係づくりであるが、「新・冷戦構造」が強調されることは、本来の目的を逸脱している感がある。