緊迫南シナ海、中露が軍事演習へ 米は“キープレイヤー”ベトナムに接近、防衛協力強化
今年中国は、南シナ海の南沙諸島(英名スプラトリー諸島)で大規模人工島造成を始めた。5月、アメリカが偵察監視を強めたことに中国は猛反発。一方で同月に、ロシアと2016年に南シナ海での合同演習を行うと発表した。にわかに南シナ海は中露と米豪日が睨み合う場となったが、今月1日、アメリカはベトナムと共同防衛声明を発表した。常に中国・ロシア・アメリカに干渉されながら、巧みに生き延びてきたベトナムが、今なぜアメリカ寄りを示したのか。
◆南シナ海領有権問題とアメリカの「アジア回帰」戦略
南沙諸島は、中国・台湾・フィリピン・ブルネイ・マレーシア・ベトナム各国が領有権を主張し、長らく争いの種となってきた。中国はベトナムと1974年・88年の二度、軍事衝突しており、88年にベトナムから奪取した岩礁で、現在人工島を造成し、3000m級の軍用滑走路を建設している。これをアメリカが強く非難し、空海からの偵察監視活動を強化したことが中国の猛反発を招き、一気に中米間の緊張が高まった。
周知の通り2011年アメリカは「Pivot to Asia」戦略でアジア回帰の姿勢を鮮明にした。アジア太平洋地域で米国の軍事力を強化する一方で、同盟国を始め同地域諸国との軍事・経済的関係を深めるもので、経済面ではTPPによる自由貿易圏創出を目指している。中国ではアメリカとその同盟国による中国封じ込めが狙いと受け止められ、南シナ海の米中緊張状態も、偵察行動によってアメリカが作り出したと主張している。
◆中露の軍事・経済同盟強化、来春の南シナ海合同演習
南シナ海での中国の行動の背後には、上海協力機構やBRICS会合等を通じて培ったロシア、インドなどとの軍事・経済協力関係がある。特に注目されるのはロシアの役割である。5月9日ロシア戦勝記念日祝賀行事の際、中露共同声明が発表され、ユーラシア経済連合とシルクロード経済ベルトの統合と、将来の自由貿易圏創出を打ち出した (アジアタイムズ5月10日付)。この直後、米ケリー国務長官がモスクワを訪れ、同時にインドのモディ首相が北京を訪れたことは記憶に新しい。
同時期に中国海軍は、初めて黒海と地中海でロシア海軍と合同演習を行っている(ロシア・トゥデイ5月7日付)。さらにロシアは、2016年5月に渦中の南シナ海で中国と合同演習すると発表した。ロシアのアントノフ国防次官は、「我々は同地域でアメリカの政策により、ロシアと中国の封じ込めが日々集中的に行われるようになっているのを懸念している」と、演習の目的が対ワシントンであることを明確に述べている(同5月30日付)。南シナ海が中露vs.アメリカの直接対決の場となる可能性がでてきたのである。
◆アメリカとベトナムが共同防衛声明-にわかに高まるベトナムへの期待
一方オバマ政権は、中国との対立をエスカレートさせて、世界で最も活発な経済地域を二分したくはないというのが本音だという(ウォールストリート・ジャーナル6月1日付)。ここへ来てアメリカとベトナムは今月1日に、巡視艇購入費1800万ドル(約22億円)の供与を含む、防衛協力推進をうたう共同声明を発表した(ロイター同日)。ベトナムはロシア主導のユーラシア経済連合とのFTA契約国で、TPP交渉参加国でもある。TPPは交渉参加国のうちベトナムに最も有利に働くとの指摘がある(ザ・ディプロマット4月28日付)。
中国牽制を意識した米越の接近は、ベトナムの歴史的友好国であるロシアとの関係に影響するといわれるが(日経6月2日付)、こうなると中国はロシアへの依存を高めざるを得ない。結果的に米中睨み合いのまま、力の均衡は保たれるであろう。恐らくこれが、ケリー-プーチン会談の要点だろう。大国の直接衝突の危機を回避するカギは、ベトナムに託されたのかもしれない。