米国、ツナ缶に「イルカにやさしい」印 イルカ保護への情熱とその矛盾、米誌指摘

 映画『ザ・コーヴ』にその漁法を問題視され、世界中から非難を浴びた和歌山県太地町のイルカ追い込み漁。最近では、日本動物園水族館協会が追い込み漁によるイルカ購入禁止を決めたことで、さらに注目を集めている。イルカ問題では日本にばかり目が向けられるが、実は他国でも様々な問題が生じている。

◆やめさせられなかったイルカ漁
 ワシントン・ポスト紙(WP)は、5月に発表された、ソロモン諸島のファナレイ村での調査結果に注目。1976年から2013年の間に、1万5000頭のイルカが、伝統的追い込み漁で屠殺されてきたと報じている。

 オーストラリアの北東1800キロにあり、小さな島々から成るソロモン諸島では、イルカの歯は男性が婚約者の女性に渡す装飾品に使われる。過去10年間でその価格は5倍に高騰。肉も販売すれば現金収入となるため、イルカ漁への意欲が駆り立てられ、持続不可能な乱獲になりつつあると、調査に参加したオレゴン州立大学海洋哺乳動物研究所のスコット・ベーカー氏は述べる(WP)。

 19世紀中ごろにはキリスト教普及の影響もあり、ファナレイ村のイルカ漁は停止していたが、1948年に再開され、商業化した。2010年には、アメリカの環境保護団体が村と協定を結び、現金と引き換えに漁を中止させたが、村人は同団体が約束を守らなかったと主張し2013年に漁を再開(AFP)。2013年には少なくとも1674頭のイルカがこの村で屠殺され、太地町を上回る数になったとWPは報じている。

◆海洋資源の減少で、イルカも食肉に?
 ソロモン諸島のイルカ漁は、経済的のみならず文化的なものだと説明するベイカー氏だが、「世界でイルカの捕獲は増加している」と懸念する。海洋資源の減少に伴い、イルカのような「野生の海洋生物の肉」をターゲットにする漁業が増加しつつあるとし、途上国でその傾向が広がっている可能性を指摘した(WP)。

 科学情報サイト『ネイチャー・ワールド・ニュース』は、「現在イルカのような小さな鯨目に属する動物には、捕獲を規制する国際的な団体がない」というベイカー氏の指摘に加え、多くの島嶼国が、大規模な調査を行うだけの設備を持たないことも、事態が改善しない理由だとして、対策の必要性を訴えた。

◆保護するべきはイルカのみ?
 さて、フォーブス誌に寄稿したアメリカのケイトー研究所の貿易政策アナリスト、ウィリアム・ワトソン氏は、イルカの保護を訴える人々は、狙った獲物とともに、漁船がイルカを網にかける「混獲」にも目を光らせてきたと説明。アメリカで売られるツナ缶の98%には、マグロを捕る際、イルカを傷つけていないことを示す「イルカにやさしい」ラベルが付けられており、消費者もこれを購入の基準にすると述べる。

 東太平洋では、マグロとイルカはともに行動する習性があることから、1980年代までは、イルカの群れを目印に網を仕掛ける漁が主だった。しかし、これによりイルカが巻き添えとなることが問題化。以来、イルカを案内役としない、FAD(人工集魚装置)を利用し捕獲したマグロを使用するツナ缶のみが、「イルカにやさしい」ラベルの使用を許されている(フォーブス誌)。

 ところが、FADは、浮遊物や海藻の周りに魚が集まる習性を利用したもので、サメ、エイ、ウミガメなど、他の生物も大量に「混獲」しているとワトソン氏は指摘。無責任なマグロ漁に脅かされるのはイルカだけではないと述べている。また驚くことに、イルカの保護に熱心な環境保護団体のグリンピースまで、「イルカにやさしいことと、海にやさしいことは別だ」と、ツナ缶会社を批判しているらしい(フォーブス誌)。

 環境保護の一言で全てを守ることの難しさを、まさにイルカ問題が示していると言えそうだ。

Text by NewSphere 編集部