米イスラエル首脳、異例の非難応酬 “まだ心配ない”とイスラエル紙は楽観視
イランの核問題をめぐって、アメリカのオバマ大統領とイスラエルのネタニヤフ首相が対立している。ネタニヤフ首相は1日に訪米したが、オバマ大統領は会談を拒否した。3日には、共和党のベイナー下院議長の招きにより、米議会で演説を行ったが、与党・民主党の議員およそ60人がこれをボイコットした。ネタニヤフ首相は演説で、オバマ大統領がイランと進めている協議を厳しく批判した。大統領はこの演説に反論した。
◆イラン核問題の解決のために、アメリカなど6ヶ国が進めている国際協議とは?
2002年、イランが密かに核開発を進めているという疑惑が持ち上がった。その後、イランは国際原子力機関(IAEA)の査察要求や、国連安保理の指示に従わず、ウラン濃縮を続けたため、2006年、国連はイランに対する制裁決議を採択した。現在イランは、アメリカを含む各国からも制裁を受けている。資産凍結や、金融取引の禁止、原油取引の停止などである。
現在、アメリカを含む6ヶ国が、核問題の解決のためにイランと協議を行っている。核施設への査察を受け入れ、ウラン濃縮に使用される遠心分離機の数を半減させるなどして、核開発能力を制限するかわりに、制裁の一部を解除するというものだ。
◆明るみに出たオバマ大統領とネタニヤフ首相の対立
オバマ大統領は、国際協議を通じての解決に強い意欲を示しているが、ネタニヤフ首相はそこに噛み付いた。大統領が取り結ぼうとしている合意では不十分で、イランの核開発をストップさせられないとネタニヤフ首相は米議会での演説で主張した。つまり、オバマ大統領のやり方では手ぬるい、というのだ。
これまでアメリカの大統領とイスラエルの首相は、どれほど意見が異なっていても、ここまで激しく、公衆の面前で互いを批判し合うことはなかった、とCNNは伝える。首相は演説で、オバマ大統領は中東の危機について認識不足であると証明しようしたという。演説は、大統領のイラン政策のみならず、中東への取り組み全体と、イランと協議するというアイデアそのものを事細かに否定するものだった、とした。
ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙は、ネタニヤフ首相は合意内容が不十分で、より良い内容の合意を求めるべきだと要求しているけれども、それはうわべだけで、首相は明らかに交渉そのものを望んでいない、と語る。
CNNによると、ネタニヤフ首相はイランの核計画を挫折させるために、容赦のない圧力と、さらに厳しい制裁を用いることを求めているが、オバマ大統領は、アメとムチの外交政策を用いることを選んでおり、反目し合っているという。
◆オバマ大統領が反論。国民に協議への支持を訴える
オバマ大統領は、この演説から2時間後に、大統領執務室から国民に語りかけ、反論を行った(CNN)。首相の主張には何ら目新しいものがなく、国際協議に代わる、実行可能な代替案も示されなかった。合意がなければ、イランはそれこそ核計画をスピードアップさせるだろう、と大統領は主張したという。
◆イスラエル国内の選挙運動とアメリカの政争に利用されたとの見方も
この議会演説を、上院議長をかねるバイデン副大統領が外遊を理由に欠席したほか、民主党議員56人がボイコットしたという(TBS)。
しかしNYT紙によると、議会のネタニヤフ首相の歓迎ぶりは、熱狂的なものだった。野党・共和党議員と、大多数の民主党議員が首相の支持者であり、万雷の拍手で議場に迎えた、と伝えている。また首相の演説は、共和党議員と、一部の民主党議員からの力強い拍手によってたびたび中断された、とCNNは伝える。アメリカでは、ユダヤ系団体が豊富な資金を通じて、政治に強い影響力を持っていると言われている(NHK)。
オバマ政権に親和的な立場からこの件を報道するNYT紙は、この議会演説を「私的利用の政治パフォーマンス」と断じた。イスラエルでは今月17日に総選挙が行われる。ネタニヤフ首相は選挙前に、安全保障問題についての自身の頑強さを示すことが目的だった、というのだ。
またCNNによると、ホワイトハウスは、ネタニヤフ首相がオバマ大統領の外交政策を無力化するために、大統領の政敵、つまり共和党と共謀しているとの見方をしているという。
◆アメリカとイスラエルの関係は今後どうなる?
この演説によって、オバマ大統領とネタニヤフ首相の関係がさらに悪くなった、とCNNは語る。どちらもそれぞれの立場を譲らなかったという事実は、すでに緊張しているアメリカとイスラエルの関係にとって、深刻な含意を持つものだとした。
カーネギー国際平和財団のイラン専門家Karim Sadjadpour氏は、ネタニヤフ首相の演説により、オバマ大統領に政治的困難が生じる可能性がある、と示唆しているという。「この演説によって、国際協議を米国民に売り込むのがずっと困難になる」というのだ。
しかしイスラエルの英字紙エルサレム・ポストは、はるかに楽観的だ。アメリカとイスラエルの関係へのダメージについて、多くの人が警告し、危ぶんでいる人もいるが、実際はそれほど永続するものでも、実体のあるものでもない、としている。
同紙は、この演説は大きく問題視するようなものではない、という報道姿勢だ。中身よりも、ネタニヤフ首相が好きかどうかで、聞く人の評価が変わる、としている。演説はイランの核開発を止めるための小さな一歩と見なされるべきだとした。
同紙は、イスラエルとアメリカの間では、これまでにも意見の対立が何度かあったが、そのあとでは必ず関係がより深まったとして、両国関係は今後も強固なままだろう、と語る。ただし、イスラエルの首相が壁際に追い込まれたと感じ、単に米議会で演説をする以上のことをしなければならないと思わされたときには、真の問題が起こるだろう、と警告した。このような強硬姿勢は、ネタニヤフ首相も演説の中で、「たとえイスラエルが孤立しなければならないとしても、イスラエルは自らの立場を守る」と述べ、におわせたものだ。