米国世論:最大の脅威はロシア 中国は3位に後退…バブル崩壊の予兆が影響か

 米大手世論調査会社『ギャラップ』は、毎年恒例の「アメリカ人が脅威と感じる国」に関する電話調査を実施し、中国に代わってロシアがトップに浮上したと発表した。北朝鮮が2位、中国は3位だった。同社は、ウクライナ情勢などでロシアの攻撃的な態度がエスカレートする反面、中国の経済成長が鈍ったことが相乗効果となって順位を入れ替えたと見ている。

◆中国以外の「敵」の台頭も
 調査は今年2月8日から11日かけて不作為の電話インタビュー形式で行われ、全米50州の18歳以上の837人が回答した。その結果、ロシアが18%の“支持”を得て、「アメリカ最大の脅威」となった。2位は北朝鮮(15%)で、昨年トップの中国は12%と3位に後退した。昨年は、中国、北朝鮮、ロシアの順だった。

 中国を脅威と感じる世論は、2012年が23%、昨年は20%、そして今年は12%と急激に縮小している。『ギャラップ』は、直営ニュースサイトの分析記事で、その背景の一つに中国の経済成長のペースダウンを挙げる。アメリカ人が中国に感じる脅威は主に「経済的な脅威」で、「安全保障上の脅威」が中心の他国とは異なると指摘。そして、ここ数年の中国経済の不調と相対的なアメリカ経済の好調により、中国脅威論が弱まってきたとしている。

 ただし、アメリカ人の中国への感情は、米中国交回復時の1979年などの例外を除き、常に「ネガティブな見方」が「好感」を上回っていたと、過去の世論調査結果を振り返る。悪感情生成の大きな契機は1989年の天安門事件で、その後も「人権問題」や「台湾政策」で悪化した。そして、その傾向は今年も変わらなかったという。そのため、今回の「アメリカの脅威」で3位後退の理由は、アメリカ人が中国に好感を抱き始めているというよりも、ウクライナ情勢を巡るロシアとの対立や、イスラムテロ組織「イスラム国」(ISIS)との戦いなど、他の「敵」の存在が相対的に大きくなっているためだと見ている。

◆中国版「バブル崩壊」「サブプライム問題」の懸念も
 中国の経済成長のペースダウンについては、ブルームバーグも「中国がアメリカを抜いて世界一の経済大国になるという予測は外れた」と報じている。

 記事では、日本のバブル崩壊を予測したという元ゴールドマン・サックスのロイ・スミスNY大教授が、当時の日本と今の中国の類似性を指摘している。「焦げ付いた住宅ローン」、「高すぎる株価」、「不動産バブル」といった状況は、「日本の没落の引き金になった1990年の状況に似ている」と、同氏は見る。

 サマーズ元米財務長官も、10月に発表した論文で、「アジア諸国の高度成長期は、しばしば突然普通の成長率に戻る傾向にある。中国もそのスランプの危機にある」と記している。ブルームバーグは、多くの識者がその端緒になると見ているのが、莫大な債務を抱えているとされるLGFV(地方政府の特別目的会社=不動産開発の際に作られる事実上のペーパーカンパニー)のデフォルトだ。こうした“中国版サブプライム問題”も、スミス氏が予測する“中国版バブル崩壊”と共に懸念されている。

◆米TVドラマやハリウッド映画にも「ロシア人の敵」多数
 米外交誌『フォーリン・ポリシー』も、『ギャラップ』の調査結果を取り上げている。こちらは主に「ロシア1位」に着目し、「アメリカの大衆は、プーチン(大統領)のウクライナに対する非常に好戦的なレトリックと攻撃性を恐れている」と記す。

 アメリカ人のロシア脅威論は、アメリカ製のTVドラマやハリウッド映画にも表れていると同誌は主張する。

(※以降、ドラマ『24』最新シーズン、ドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』最新シーズン、映画『エージェント:ライアン』のネタバレ有り)

その例として、人気ドラマシリーズ『24』最新シーズンの究極の敵がロシア政府のメンバーだったことや、同じく『ハウス・オブ・カード 野望の階段』の最新シーズンには「プーチン大統領を強く意識した架空のロシア大統領が重要な役柄で登場する」と指摘。ハリウッド映画『エージェント:ライアン』でも、CIAエージェントとロシアのテロリストが戦いを繰り広げているとしている。

(※ネタバレ部分終わり)

 『フォーリン・ポリシー』は、ロシア側の対米感情も取り上げている。国際調査機関の世論調査では、アメリカに好意を持っているロシア人は昨年、前年の51%から23%に急落。ロシアの国内世論調査でも、22%のロシア人がアメリカを「ロシアに対するテロ攻撃の発生源」とみなしているという。同誌はこれらについて、「敵意はお互いさまだ」と記している。

Text by NewSphere 編集部