ロシア、エジプトに急接近…米国との同盟に揺さぶり イスラエル紙はオバマ政権批判
「オバマはエジプトを失った大統領として記憶されるだろう」、イスラエルのハアレツ紙は2011年1月30日、このように報じた。米国とエジプトの同盟は30年以上に及んだが、「エジプトの春」以降の混乱で、両国の関係は危機に陥った。その隙をつくように、ロシアがエジプトとの関係強化を図っている。
海外メディアは、これまでの経緯と今後の展開について分析している。
◆ 米国・エジプト関係悪化の経緯
エジプトはナセル大統領時代、旧ソ連と親密な関係を維持していた。しかしサダト大統領時代に米国寄りとなり、1979年にはイスラエルとキャンプ・デービット合意を結んだ。これ以降、米国にとってエジプトは、中東における信頼できる同盟国となった。年間15億ドル(1770億円)の支援を受け、その85%は軍事支援金であったという。中東の安定化に貢献していた面もあった。
2011年、反政府抗議運動『エジプトの春』の席捲で、1981年より続いたムバラク政権が崩壊した。その後、ムスリム同胞団の支持を基盤にムルシー大統領が就任した。しかし、その後、実質的なクーデターにより、シシ将軍による新政権に変わった。ムスリム同胞団への弾圧が強化され、ムルシー支持派から1400人が犠牲者となり、16,000人が拘束されたという(英BBC)。
米国は当初ムルシー大統領を支持した。シシ将軍らによる実質的なクーデターを、政権移譲が民主的に行なわれなかったと批判した。さらに米国は、当時予定されていた15億ドルの軍事支援金と5億6000万ドルの借款の提供を、一時的に凍結した。ヘリコプターアパッチと戦闘機F16の引き渡しも中断した。2013年6月にケリー国務長官がシシ将軍を訪問した際も、米国の支持はまだ曖昧なものにしていた(スペインのエル・ムンド紙等)。
◆ロシアがエジプトに急接近
米国・エジプトの信頼関係が崩れた隙を突くように、2013年11月、ロシアのラブロフ外相とショイグ国防相はエジプトを訪問し、同国の外相、国防相と4者会談をもった。この会談では、ロシアからの軍事支援を受けたいのであれば、米国との同盟関係を脇におく必要がある、と語られたようだ(エジプトの戦略アナリストのヤセル・エルシミ氏)。兵器の供給を餌にエジプトを味方につける行動であった。
2014年2月には、当時提督になったばかりのシシ氏がロシアを訪問し、兵器を購入。その資金20億ドルは、サウジアラビアとアラブ首長国連邦が融資した。プーチン大統領とも会談し、両国の信頼関係も確立した(スペインのエル・ムンド紙)。
一方プーチン大統領は、今月9-10日、エジプトを訪問した。ロシアはウクライナ紛争をめぐり欧米からの制裁に苦しめられており、エジプトの支持を確かなものにすること、食料品の輸入拡大がねらいとみられる。さらに、ユーラシア連合(ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、アルメニア)へのエジプトの参加も確約させた。
最初の原子力発電所の建設も進める計画だという。またロシア企業は、石油/天然ガスや木材などのエジプトへの輸出に関心を示している。双方の商取引はドルを介さず両国の通貨で行なうことも決めたようだ。2014年の両国の取引は一昨年比50%伸びだという。昨年11月にはMIG29とヘリコプターで30億ドル(3540億円)の取引が実現している(ロシアのムンド・スプートニック紙等)。
◆エジプトを失った米国の失敗
貴重な中東での同盟国を失った、というオバマ政権への批判もみられる。米国のアナリスト1615人への調査では、歴代50人の国務長官の中で、ケリー長官への評価は最低レベルだった。最高の支持を得たのはキッシンジャー氏の32.2%で、ケリー氏はわずか0.3%の支持しか受けていない(ロシア・トゥデイ)。
ドバイの軍事アナリストのテオドレ・カラシク氏は、一連の動きに対し、プーチン大統領が複数の関心事を一瞬にして分析コントロールできる能力をもっていると評価した。対してオバマ大統領は、単にひとつのことに注視するだけである、と答えたという(英テレグラフ紙)。