イスラム国の人質要求変化、“米国の外交を破壊” イスラエルメディアが危惧

 イスラム過激派組織「イスラム国」による日本人人質事件は、日本国民に国際社会での自国の役割について、また地理的距離だけでなく意識的にも遠い国々であった中東地域の情勢について、再考させる深刻な経過を示している。海外各紙も連日、この事件を取り上げ、日本の対応に注目している。

◆ヨルダン政府への圧力か
 イスラム国は、ジャーナリストの後藤健二氏の解放について、ヨルダンに身柄を置くサジダ・リシャウィ死刑囚の釈放を条件に示している。同死刑囚は、2005年にヨルダンの首都アンマンの3つのホテルで60人を殺害したとされる。

 日本政府にとって、今回の要求は前回よりも希望の持てるものだ、と『イスラエル・ナショナル・ニュース』が報じている。しかし、ヨルダン政府にとって死刑囚は、イスラム国に拘束されている自国のパイロットの解放を要求するための重要な切り札だ。同志社大学大学院グローバルスタディーズ研究科の内藤正典教授は、「(死刑囚)を釈放すれば、ヨルダンの国民の怒りは極まるだろう」、「ヨルダン政府にとっては大きな痛手となる。非常に難しい状況だ」と述べている。(イスラエル・ナショナル・ニュース)

 一方で、湯川遥菜氏が殺害され、身代金から死刑囚釈放に要求が変わったことは、ヨルダン政府にとって好ましい状況ではない、と同メディアはみている。しかし、アンマンにあるアル・クッズ政治学研究センターのオレイブ・レンタウィ所長の示した「ヨルダンがイスラム国に対し、日本人人質とヨルダン人パイロットの解放をセットにして、交渉を行う良い機会だ」(AFP)といった見方もあるようだ。

 最近投稿された動画では、死刑囚の釈放と引き換えに、日本人、ヨルダン人パイロットの両名が解放されるのかはっきりしない。ヨルダンの学者ハッサン・アブ・ハニエ氏は、「(イスラム国が)ヨルダンに圧力をかけようとしているのは明白だ。そのため、ヨルダンに影響のある要求をいま一度試している」(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)とみている。

◆アメリカとのスクラムを崩そうとしている?
 「イスラム国は、意識的にアメリカの国際関係を破壊しようとしているのか?」とイスラエル・ナショナル・ニュースは見出しをつけている。AFPは、中東の過激派に対抗しようとするアメリカ率いる連合国を崩そうとしているのでは、とのアナリストの見方を紹介している。

 アメリカは「テロリストとは一切交渉しない」という原則を守っている。26日には、米国務省のジェン・サキ報道官が「アメリカはテロリストに譲歩しない。それが正しい策だ」(イスラエル・ナショナル・ニュース)と述べ、人質と犯罪者の交換は、身代金を支払うのと「同等の行為」だ、との考えを示した。

◆対応が遅かったのでは?
 先週日本人2人の動画が投稿されてから、日本政府はヨルダン政府と事件に関する連絡をとっている。現地対策本部では、中山泰秀外務副大臣が指揮を執り、両国の友好関係によって、テロリストとの連絡窓口を持つことに期待した。(イスラエル・ナショナル・ニュース)

 しかしながら、この事件の前、安倍首相の中東訪問の際に開かれた国家安全保障会議(NSA)の会合では、日本人拘束者の話が議題に上がることはなかった、と関係者が話したことをロイターは報じている。

 菅義偉官房長官は27日、「イスラム国の活動や地域の防衛などを含め、全ての要因を熟慮した末に、首相の訪問を決定した」と述べた。

 米セキュリティ会社日本法人CTSSのニルス・ビルト氏は、政府がもっと早くに過激派と連絡を取るよう動くべきだったのではないか、と指摘した。「日本は今のところ、現地での有効で確実な交渉の窓口を開くための、ほんのわずかな成果しか得られていない」、「誰かが今ある裏ルートを使いコンタクトを取ろうとしているのは間違いないだろうが、今までの数ヶ月間で動いていれば、もっと効果的だったのではないか」。(ロイター)

Text by NewSphere 編集部