英首相“合法なら信仰侮辱も可能”、ローマ教皇に反論 言論の自由めぐり要人の意見二分
フランスの風刺新聞社『シャルリー・エブド』に対するテロ事件をめぐり、「言論の自由」に関する議論が盛んになっている。
◆教皇と英首相の意見が対立
フランシスコ教皇は15日、「他者の信仰を侮辱してはならない。他者の信仰を笑いものにしてはならない」と、フィリピンに向かう機上で報道陣に語った。さらに教皇は、傍らにいた側近のアルベルト・ガスパリ氏を引き合いに、「もし、親友のガスパリが私の母に罰当たりな言葉を浴びせたら、彼はパンチを受け入れなければならないだろう」と付け加えたという。
これに対し、キャメロン英首相は18日、CBSの政治討論番組『Face the Nation』のインタビューで次のように語った。
「私はクリスチャンだ。もし、誰かがキリストについて何か侮辱的な事を言えば、私はそれを侮辱と受け取るかも知れない。しかし、自由社会では、それに対して復讐を加える権利はない。新聞、雑誌は、法律の範囲内で侮辱的なものを発行することができる。我々はそれを受け入れなければいけない。それが、我々が守るべきものだ」
◆各国要人の意見も二分
このフランシスコ教皇とキャメロン首相の発言に代表されるように、フランスのテロ事件の直接的な原因がイスラム教に対する風刺だったことなどを受け、今、「言論の自由」に関する議論が世界に広がっている。シンガポール紙『ザ・ストレイツ・タイムズ』は、各国要人のコメントを「他者の感情を害する権利」が「ある」「ない」で分けて紹介している。
【権利は「ない」派】
・トルコ・ダウトオール首相:「トルコは(『シャルリー・エブド』が風刺したイスラム教予言者)ムハンマドが侮辱されることを許さない。表現の自由は、侮辱の自由ではない」
・マレーシア・ラザク首相:「私の意見は教皇とほぼ同じだ。他人の信仰のデリケートな部分を尊重しなければ、今回の事件を起こしたような者たちが現れる」
・シンガポール・イブラヒム通信情報・イスラム関係担当大臣:「異なる文化、考え方がある中で、我々はお互いを尊重しなければならない。全ての者が社会の調和を守る責任を負っている。言論の自由を守るのと同時に、我々は言論に責任を持たなければならない」
【権利は「ある」派】
・フランス・オランド大統領:「(フランス)はルールと信条と価値観を持つ国だ。その一つである自由と民主主義を譲ることはできない」
・ドイツ・メルケル首相:「これは、我々皆が大切にしている価値、我々が拠って立つ価値、表現の自由、自由そのものと人間の尊厳に対する攻撃だ」
・オーストラリア・アボット首相:「気軽に侮辱すべきではないと思うが、健全な民主主義の下では、多くの人々が感情を害されたり侮辱されることを受け入れなければならない」
・ジョンソン・ロンドン市長:「彼ら(シャルリー・エブド)がしたことには同意できないかもしれない。それによって感情を害したかもしれない。しかし、それを発表する権利は守られなければならない」
◆英紙はキャメロン首相の立場を擁護
英インデペンデント紙は、教皇発言を批判し、キャメロン首相の立場を擁護するコラムを掲載している。
コラムの筆者、ステファノ・ハトフィールド記者は、教皇の「パンチを受け入れなければならない」という表現を、暴力を否定するカトリックのトップらしからぬ発言だと批判。それらを理由に「私はデビッド・キャメロンがアメリカのテレビで言った事に同意する」と記している。
同記者は、「英国人は他人の宗教を侮辱することはしない」とも記す。その理由は「それを恐れているのではなく、根本的に礼儀正しい国民性だからだ」という。そして、今回の教皇のコメントは「何の助けにもならないばかりでなく、結果的に怒りを呼び起こすものだ」としている。