習近平は尖閣「棚上げ」を…米識者が期待 歴史踏まえ解決は困難と悲観的
1982年、鈴木善幸首相(当時)が、日本と中国は尖閣諸島について、現状を維持することで合意していると、イギリスのサッチャー首相(当時)に対して語っていたことがわかった。両首脳の会談内容を記録した文書が、12月30日、イギリスの公文書館により機密指定を解除され、明らかとなった。
◆公式には「棚上げすべき問題がそもそも存在しない」だが
共同通信が伝えたところによると、鈴木氏は、中国の指導者であった鄧小平氏との交渉内容を、サッチャー氏に語った。その中で、日中両政府は、重要な共通の利益を基礎として協力するべきで、細部の意見の相違はひとまず置いておくべきである、との合意に達したと説明している。そしてその結果、尖閣問題については、具体的に提起することなく、現状を維持すべきだということで合意し、尖閣問題は実質的に棚上げされた、と語っている。
日本政府は、このような合意が存在することを、公式に否定し続けている。外務省のウェブサイトは「尖閣諸島をめぐり解決すべき領有権の問題はそもそも存在していません」「このような我が国の立場は一貫しており,中国側との間で尖閣諸島について『棚上げ』や『現状維持』について合意したという事実はありません」と記している。
◆先に合意を破ったのは、どちらだったのか?
ウェブ誌『ディプロマット』は、中国側はこの合意について、日本政府とは異なり、公に言及していることを伝える。2012年に日本が尖閣諸島を国有化した際、中国当局はこれに憤慨し、日本が現状を維持するという非公式合意を破ったと言って非難したという。また、この国有化により、事実上、中国側にも問題の「棚上げをやめる」ことの正当性が与えられた、としている。記事は、その後、尖閣周辺海域への中国船舶の侵入が急増したことを伝えている。
これに対して日本政府は、国有化に先立つ2008年、中国が国有船を日本の領海内に侵入させたことは、現状を武力または威圧によって変更しようとする、中国側の明白な意図を示していた、と反論しているという。さらに2010年には、中国漁船による、日本の海上保安庁の巡視船との衝突事件が発生した。
記事は、合意がなされた1970年代後半と、現代とで、両国の力関係がまったく変わっていることが、中国が領有権の主張を積極的に打ち出す一因になっている、との見解を紹介している。
もしも日本が2012年に尖閣諸島を国有化していなかったら、中国が尖閣問題に対して、どのようなアプローチを採ることになっていたかは、決して確実に言うことができない、と記事は語る。しかしその上で、日本政府による尖閣国有化は、問題を棚上げするという非公式合意の最後のとどめになった、と語る。そして、日中のどちらも、問題が棚上げされていた時代には戻るつもりはなさそうである、と結んでいる。
◆意外にマイルド? 中国側の反応
今回、合意の存在が、イギリスの公文書によって確認されたが、中国政府には今のところ、このことを日本政府に対する新たな攻撃材料として使用するつもりはないようである。
中国国営新華社通信が伝えたところによると、中国外務省の華春瑩報道官はこの件について、一連の報道に注目している、と語った。「釣魚島」(尖閣諸島の中国側呼称)は古来より中国固有の領土であるということで、中国の立場は一貫している、としている。そして、「日本側が歴史を正しく受け入れ、事実を尊重し、釣魚島問題を適切に解決するよう努力することを望んでいる」と、従来通りの主張を表明するにとどまった。
◆再び「棚上げ」することが現時点で最良の選択肢?
米外交専門誌『ナショナル・インタレスト』に寄せた論考で、ロバート・マニング氏は、尖閣問題に簡単な解決策はない、との判断を下している。マニング氏は、米シンクタンクのアトランティック・カウンシル(大西洋協議会)のブレント・スコウクロフト国際安全保障センターのシニアフェローである。
両者が歩み寄るべきだ、といった理性的な解決策を主張する人もいる。しかし、歴史に深く根を下ろしている、不信や疑念といった感情的問題を、理性的な外交努力で克服しようとすることは極度に難しい、と氏は指摘する。あらゆる問題には解決策があると考えるのは、アメリカ式のうぬぼれで、そのことを証明している外交の失敗には事欠かない、と氏は語っている。
アジア諸国の価値観のリストでは、主権は非常に高い位置にある。部外者にとっては、ヤギしか住んでいない無人の「岩場」(尖閣諸島のこと)をめぐる摩擦は、坊主頭の男性2人がくしを取り合っているようなものに見えるかもしれない。しかし主権は、簡単に放棄できるような行動原則ではない、と氏は語る。
そこで氏は、東シナ海、南シナ海の領土問題に関して、予見しうる未来において期待できる最良のことは、(主張を真正面からぶつけ合うのではなく)それらの問題を、衝突を避けるか、最小限度に抑えるに足りるほど、巧みに対処することだ、と結論している。鄧小平氏が「棚上げ」を選んだことは、まさにこの方針にのっとっている。習近平国家主席も、同様のアプローチを取ることへの期待を、氏は示している。