キューバ、医師の「輸出」で年間9500億円稼ぐ…エボラ対策に貢献で話題
米タイム誌は、エボラ出血熱の対応にあたる医療従事者ら「エボラ・ファイターズ」を、「パーソン・オブ・ザ・イヤー(今年の人)」に選出した。エボラ出血熱の死者数は6300人を超え、医療従事者340人が犠牲になっている(AFP)。
こうした状況下、キューバがエボラ対策としてアフリカに医療チームを派遣し、米大手紙などの賞賛を浴びた。最初のグループは10月に出発した。62名の医師と103名の看護師である。その後85名がリベリアとギニアに派遣された。さらに300名が加わる予定だ。医療従事歴15年以上のベテランが中心だという。活動期間は、他国より長い6ヶ月の予定だ。
その背景には、同国の医師派遣ビジネスがある。中南米メディアが詳しく報じている。
◆医師派遣ビジネスで外貨獲得
1959年、フィデル•カストロ氏指導のもとに革命を起した時点から、キューバの医療関係者は「輸出」の対象となった。政府にとって魅力ある外貨の収入源となったからだ。ロイターによると、世界66ヶ国で5万人のキューバ人医師が働いている。医師輸出により、キューバは年間80億ドル(約9500億円)の外貨を稼いでいるとされている(ベネズエラのプロダビンチ•デジタル紙)。
人口1100万人のキューバに、8.3万人の医師がいるとされる。彼等は、ほぼ義務的に、政府が命じる海外派遣に従わねばならない。同紙によると、例えばベネズエラでは、約3万人のキューバ人医師が働いている。ベネズエラは、医師ひとりにつき毎月4,255.30ドルをキューバ政府に支払う。しかし、医師が受け取る額は毎月400ドルにすぎない。帰国後に、月あたり600ドルが支払われる。医師ひとりにつき約3,000ドルがキューバ政府の歳入となるのだ(シエンシア•イ•コサス•デジタル紙)。また原油の対価という側面もある。
ブラジルでは、キューバ人医師ひとりにつき毎月1,000ドルをキューバ政府に支払っている。医師の取り分はその4分の1だけとされる。同紙によると、ブラジルは2013年、約2億ドルを支払ったという。
◆キューバ人医師の不満:米国への亡命も
一方で、医師たちは政府に強い不満を抱いている。彼らが稼いだ外貨の多くは、少数権力者の間で分配されているのだ。最近2年間、医療活動の特別ビザを取得したあと、米国へ亡命した医師が3200名いる(キューバのディアリオ•デ•クバ紙)。
さらに同紙によると、国内で働く医師への報酬は、ひと月に最高でも66ドルだという。BBCムンドは20ドルと伝えている。そのため、収入の点から、外国派遣を選択する医師が多くいる。派遣を拒否すると、職場選択で差別を受けるおそれもあるため、この流れは変わらないだろう。
◆キューバ人医師のレベルが低下?
キューバの医師レベルについて、疑問も出ている。ブラジル医師会のカルドソ会長は、キューバの医師レベルを酷評している(プエルトリコのエル•ベラス紙)。同紙によると、キューバの医学は1978年までは高いレベルにあった。しかしそれ以後は、医師になる関門を容易にしたため、医学部は学生の最低の選択肢になってしまったという。
アフリカ派遣に際しても、出発前に、「エボラ出血熱に感染しても国に戻って治療は受けない」という誓約書に署名させられたことが、海外メディアで公にされた。キューバではエボラ出血熱の治療体制が整っていないからだ。実際、シエラレオネで感染したキューバ人医師は、WHOの要請で、スイスのジュネーブ大学病院にて11月21日から隔離治療を受けた。その後全快し、12月6日に帰国した。
◆キューバはまだ医師と看護師の輸出を続ける
現在キューバは、フィデル•カストル氏の弟ラウル氏の治政で、社会主義体制から少しずつ資本主義の導入を進めている。沖合いの海底には石油と天然ガスの鉱床も発見されており、その開発の為にも外資と技術の導入が必要となってくる。
しかし、まだ当面は現体制からの脱皮はできない。1960年代から続いている「医師と看護師の輸出」もこれから続くことになる。