中国人団体、皇室に“石碑”返還要求 新たなパフォーマンス、と海外メディアは冷ややか
日本に略奪されたとする石碑の返還を求めて、中国の民間団体が、日本政府と皇室に書簡を送っていたと、中国国営新華社が発表した。日中間の新たな紛争に繋がる可能性もあるが、中国メディアと欧米メディアの報道には温度差がある。
【1世紀前の戦利品】
問題となっているのは、渤海国の初代王が、唐の皇帝からその称号を受けた事が記されている、「鴻臚井碑(こうろせいひ)」だ。日露戦争に勝利した日本軍が、ロシアより獲得した旅順から「戦利品」として1908年に日本に持ち帰った石碑で、現在は皇居に保管されている(英語版人民日報)。
「20世紀の日本の中国に対する侵略の間、日本の軍国主義によって引き起こされた個人的、物質的、精神的な損害の賠償」を求めるため、2006年に創設された「市民グループ」、『中国民間対日賠償請求連合会(CFDC)』がその存在を知り、返還を求めて、天皇と日本政府宛に書簡を送ったとAFPは伝えている。
なお、今回の件に関し、宮内庁担当者は「公式の要請はまだ受け取っていない」と述べたという(AFP)。
【高まる日本批判】
英語版人民日報は、これは中国の民間団体が略奪された文化財の返還を日本の皇室に求めた初の事例だと紹介。さらに、日中戦争から第二次大戦終結までに、日本に略奪された文化財の数は360万点とされ、日本軍が荒らした遺跡の数は740か所に上るという過去の報道も取り上げている。
石碑は「正当な持ち主に返されるべき」と主張するCFDCの担当者は、より一層のプレッシャーを掛けるため、専門家チームを日本に派遣する計画もあること、またそれでもうまくいかない場合は、中国政府に介入を要請すると、新華社に話したという。
このニュースは中国のソーシャル・ネットワークで拡散しており、「スローガンはいらない。日本に対しては具体的なアクションを」、「間違いを正すため日本に必要なのは、今、石碑を返還することだ」など、何十万件ものコメントや投稿が寄せられているという(英語版人民日報)。
【新たな点稼ぎ?】
一方、今回の件に関しては、欧米メディアは冷めた見方を示している。
ブルームバーグは、「中国は、隣国を突っつく方法をたくさん持っている」とし、尖閣諸島、防空識別圏に続き、「新しい切り口で日本に闘いを挑んできた」と述べる。そして、石碑に対する「権利の強調」をし、日本に対し立ち上がったことで、たとえ日本が返還に応じないとしても、一般市民からのポイントは稼げるとし、「愛国主義者の熱情にムチを打つことで、国民からの信頼を高めること」が政府の狙いであると指摘する。
AFPは、日本の憲法では天皇には権限はないため、手紙の宛先に天皇を含めることに、どれだけのインパクトがあるのかは不明だと述べ、天皇家の財産はすべて国家のものであることも指摘した。