日本と連携、「考え直せ」…豪州識者が警告 中国との対立リスク考慮か
安倍晋三首相は7日からオーストラリアを訪問中だ。8日には、日本の首相としては初めて、豪国会で演説を行い、安全保障分野でのオーストラリアの協力を求めた。
豪地元紙は、安倍首相が戦略的連携強化をオーストラリアに求めたことに注意を促す意見を取り上げている。また中国紙も日本の動きを牽制している。
【日豪連携はオーストラリアの利益に適うか?】
オーストラリア国立大学のヒュー・ホワイト教授は、豪地元紙『ジ・エイジ』に、安倍首相のメッセージにオーストラリアが答えるべきか、と疑問を寄せている。
同氏は、日本が先週、唯一無二であった平和主義の決定的な方向転換をした、と書いている。集団的自衛権の新しい方針のもと、自衛隊は同盟国に味方して共通の敵と戦うことになるだろうとしている。そして安倍首相は今、ともに戦ってくれる同盟国を探しているのだという。共通の敵はもう見つけてあると皮肉を込め、中国の台頭を指摘した。
中国の増大する軍事力が日本への脅威になっているが、アメリカは日本の代理として中国に敵対することを嫌がっているようだ。尖閣諸島の件を見ればよくわかる、と同氏は続ける。日本はこれまでのアメリカに依存した防衛方針が、中国との間に起こる可能性がある先々の有事に機能しないのではないかと不安だ。このため、自衛隊の活動範囲を広げ、新しく協力関係を結べる国を探している、と論じている。
首相の心積もりでは、フィリピン、ベトナム、インドは数に入っている。オーストラリアもそこに加えたいのだという。
【アジアが分断される危険を指摘】
日本にとっても、中国に対抗する地域の連携を図り防衛を固めることは賢明な策ではないだろう、とホワイト氏はみている。日本が中国に対抗して他国と防衛的な連携を組めば、アジアを敵対関係で分断してしまうことになり、最善の道とは到底思えないとしている。
日本政府が先週、集団的自衛権の行使容認をすすめる決定をしたことで、日米、豪米のそれぞれの防衛関係から、当然の結果として三国の連携が強まったとする見方もある。しかし、深刻なリスクと、中国やその他の国とのより広い枠組みにも目を向けなければいけないだろう、と地元オーストラリアン紙は報じている。
【環太平洋地域経済の要】
中国は、世界の貿易の流れの中に組み込まれていて、大切な役割を演じている、とオーストラリアン紙は中国の経済的貢献を評価している。そのうえで、日本とオーストラリアは、環太平洋地域で各国を経済的に結びつける重要な役割を担っているとみている。
日本とオーストラリアは、環太平洋経済連協定(TPP)、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)両方の話し合いをすすめている。TPPに中国は参加しておらず、また、RCEPには、アメリカが参加していないことを、同紙は例としてあげている。
【中国紙は日豪の潜水艦共同開発を牽制】
中国国営人民日報は、「オーストラリアと日本の戦略的連携は浅はかだ」との見出しの記事を掲載している。オーストラリアが日本と潜水艦の共同開発をすすめることに異議を唱えるホワイト氏の、「潜水艦の技術と能力は、オーストラリアにとって、戦略的に極めて重要だ。また機密保持のため非常に注意すべき分野であることは明らかだ。日本のように戦略的利益が常に明確になっているわけではない他国に開発の助けを求めることは、重大で危険な行為と言えるだろう」とする意見を取り上げている。