日・中・印・露の4大国、“ポスト米国”ねらい危険な駆け引き まずは日中が安保構想で激突
安倍首相は30日夜、シンガポールで開幕するアジア安全保障会議(シャングリラ会合)で基調講演を行い、「安倍ドクトリン」と呼ばれる独自の安全保障政策を披露する。その中で、東南アジア諸国連合(ASEAN)の安全保障体制を日米で支援することを表明し、地域の脅威となっている中国の海洋進出を牽制する見込みだ。AFP、ウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)などが伝えている。
関連して、フィナンシャル・タイムズ紙(FT)が、日本、中国、インド、ロシアの4大国がアジアの覇権を争って「危険な駆け引き」をしている、とするコラムを掲載した。
【「安倍ドクトリン」 vs 習近平の「新アジア安全保障構想」】
通称「シャングリラ会合」は、アジア太平洋地域とアメリカの国防大臣らが参加する防衛・安全保障関連の国際会議だ。シンクタンクのIISS(英国国際戦略研究所)が主催し、毎年シンガポールで開かれている。日本は例年防衛大臣か副大臣を派遣していたが、13回目となる今回は、安倍首相と小野寺五典防衛大臣が揃って出席する。
一方、中国の派遣団は、人民解放軍の王冠中参謀副総長がトップだ。これは「例年より地位が低い」(WSJ)。中国は、「安倍ドクトリン」に対抗して、習近平国家主席の「新アジア安全保障構想」を披露する見込みだ。中国国営英字紙チャイナ・デイリーは、これを念頭に、今回の会合は「中国と日本の対決の場となる」と報じている。
中国側の構想は「アジアの問題はアジア諸国で解決する」というテーマに根ざしており、暗に「アメリカ排除」を打ち出しているという。一方、「安倍ドクトリン」の方は、アメリカをはじめアジア以外からもパートナーシップを求める「より包括的なプランだ」と、ISSのティム・ハクスレー氏は見ている(WSJ)。
【インド新首相誕生で日本との結束は強まるか】
FTのコラムは、中国が軍事的にも勢力を拡大しているアジア太平洋地域で、相対的にアメリカの影響力が落ちていると指摘する。それに呼応するように、日本、中国、インド、ロシアの4大国が既に将来を見越して駆け引きを繰り広げていると論じる。
インドでは先日、モディ新首相が誕生した。モディ首相は前任者たちよりも大きな野望を抱いているとされる。FTによれば、単に国内で経済成長を目指すだけでなく、「インドは国際舞台でも中国に対抗できる国になるべきだ」と新首相は訴えているという。
日本はそのインドに対し、質で上回る技術支援や積極的な投資を行い、中国に対抗すべきだと同紙は記す。また、「安倍首相は、モディ首相が最初の外遊先に中国ではなく日本を選ぶことを望んでいる」とし、共に中国との間に領土問題を抱えることや、両首相の考え方と政策に一致点が多いことなどから、今後さらに対中国で結束が強まると予想している。
【アメリカに頼れない時代が来る?】
一方、ロシアは、クリミア併合に対する西側諸国の制裁に対抗して、EU諸国や日本に代わる新たな天然ガスの主要輸出先として、中国市場に目を向けているとされる。対する中国は、ロシアの人口減少につけ込み、増加している華人人口を背景にシベリアでの影響力拡大を画策していると、FTは指摘する。
同紙は、中国のアジア戦略は「アメリカを追い出す」という極めて明快なものだという。そのために、「今後も中国は米国政府の腹を探るために、近隣諸国へ圧力をかけたり刺激したりするだろう」と記す。また、日本と韓国は短期的には引き続きアメリカの軍事力の傘に守られるが、長期的には自衛の必要に迫られると警告している。
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