国際世論より資源が重要? 中国の南シナ海石油掘削強行、専門家も想定外の事態に

 中国の国営エネルギー会社、中国海洋石油総公司(CNOOC)が先週、南シナ海の南沙諸島付近に石油掘削装置を設置したことから、地域の緊張が一段と高まっている。

 ベトナムの沿岸警備当局は7日、ベトナムの警備艇が中国の大型監視船から放水銃などの攻撃を受け、乗員が負傷したと発表した。こうした事態を受け、ベトナムのグエン•タン•ズン首相は11日、ASEAN首脳会議にて各国首脳に中国対策への支持を訴えた。

【協力に合意したはずがなぜ一転】
 ニューヨーク・タイムズ紙によると、中国とベトナムの両国は、2011年と昨年との2度に渡り、海洋問題で衝突しないよう2国間同意に至っていたという。

 フィリピンも同じく南シナ海で中国との領有権争いを抱えているが、フィリピンと違い、ベトナムはアメリカと明確な軍事協定を結んでいない。そのため中国に対する態度も、2国間協議を拒み多国間協議を求めているフィリピンとは大きく異なる。

 オーストラリア国防大学のベトナム問題専門家カール•セイヤー氏は、今回の中国による石油掘削装置の設置を「完全に想定外」とフィナンシャル・タイムズ紙に語っている。中国と日本、および中国とフィリピンの間の緊張はここ1年で高まっているが、それに比べたらベトナムが中国の怒りを買ったかもしれない動きはごくわずかだという。「ベトナムの何が中国を挑発したのかさっぱりわからないが、これではせっかく改善の軌道にあった関係が逆戻りだ」と同氏は指摘する。

【専門家も理解に苦しむ中国の動き】
 フィナンシャル・タイムズ紙によると、中国のこうした動きについては有識者でも意見が分かれており、その真意が掴めないという。

 一部の専門家は、中国に対するアメリカの言辞が強硬化していることに対する反応では、と見ているという。しかし一方、その考えにも首を傾げる者もいる。オバマ大統領の支援は主に日本やフィリピンに向けられたもので、ベトナムではないからだ。

 ボストンカレッジのロバート•ロス氏は、「あるいは中国は、ベトナムが昨年12月、日本に巡視船の提供を申し入れたことに腹を立てているのかもしれない」と指摘している。

 MITのテイラー・フレイベル氏は、「南沙諸島付近で採掘をしても、ベトナムは中国との友好関係を崩すようなリスクを冒してまで反抗してこないだろう」という誤った考えを中国側が持っていた可能性もあると分析している。

 しかしいずれにせよ、その決断は強い抗議活動を引き起こした。通常ベトナム政府は国内デモに対し厳しい取り締まりを行うが、この週末ハノイの中国大使館を取り囲んだ数百人のデモ隊については容認した、と同紙は報じている。

【自国の方針を疑問視する中国の専門家も】
 こうした動きには中国国内の専門家からも疑問の声があがっている。ニューヨーク・タイムズ紙によると、香港大学のデビッド•ツヴァイク氏は「ベトナムに向けた中国の強硬姿勢は、他地域における中国の外交目標を危険にさらす可能性がある」と指摘しているという。

 同氏は「中国が、ベトナムと2国間合意の末に協力しあうことができないとすれば、他の国を多国間協定ではなく2国間合意に持ち込むよう説得することなどできるはずがない」と語り、中国の強硬姿勢により東南アジア諸国がアメリカのアジア重視を歓迎する方向へ動けば、自らの戦略が裏目に出るとの見解を示している。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、中国にまだ技術がなかった過去には、外国企業に南シナ海の探索権を提供していたという。しかし今回、中国海洋石油総公司(CNOOC)のプロジェクトが商業ベースにのれば、一切外国の力に頼ることなく独自の開発が進められ、CNOOCは大きな主導権を握ることができると伝えている。

 同紙によると、CNOOCは、中国の総石油およびガス埋蔵量の3分の1以上が南シナ海の下にあると推測しているという。その恩恵は、国際世論を敵に回してなおお釣りがくる、というのが中国の算段なのだろうか。

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Text by NewSphere 編集部