“貧しい国”だから? 中国がフィリピン援助を渋る理由
小野寺五典防衛大臣は13日、台風30号で大きな被害を受けたフィリピンに、1000人規模の自衛隊員を緊急援助として派遣する用意をしていると発表した。また政府は、1000万ドルの資金援助を決定。最悪の被害を受けたレイテ島には25人の医療チームを派遣した。
安倍首相はフェイスブックで、今回のフィリピンへの救援は、これまでの海外援助において「最大規模」だ、と述べた。
国連人道問題調整事務所(OCHA)は14日、フィリピン政府の統計として、死者数は4460人と発表した。被災者は970万人にものぼり、92万人以上が避難生活を余儀なくされているという。特に食料や水、医薬品の必要に迫られている。
【アジアで存在感を強めたい日本】
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、自衛隊派遣決定の背景には、この地域での存在感を高めたいという安倍政権の方針がある、と報じている。
同紙は、資源豊富な南シナ海での領有権に関して中国の主張が加熱するにつれ、安倍首相は、フィリピンやベトナムなどのアジア諸国と関係強化を図ってきたことに言及。実際7月には、円借款を利用して、沿岸を警備する巡視船を10隻フィリピンに提供していた。
【あまりにも少ない中国の援助額】
一方、中国の習近平国家主席は今週、他の先進国と同じようにフィリピンに援助すると約束した。しかし、その額は10万ドルだったとロイターが報じている。ちなみにオーストラリアは3000万ドル、ヨーロッパは1100万ドル、アラブ首長国連邦は1000万ドル。
ニューヨーク・タイムズ紙は、援助額の少なさは、中比両国の冷え切った関係の表れだ、と指摘している。フィリピン政府は2012年、中国との南シナ海での領土問題を国際裁判所に訴えた。また、日本からフィリピンの軍備を強化する提案を受けいれ、自衛隊の船を受け取ったことが、中国の怒りを買った、とニューヨーク・タイムズ紙が報じている。
これに対し、人民日報傘下のグローバル・タイムズ紙は、「領土問題でねじれた両国の関係のために、自然災害への救済が妨げられてはいけない」「中国は、国際的な援助に同様に参加するべきだ」と中国へ国際的な役割を果たすよう求めている。
【“貧しい”中国に他国を援助する余裕はなし?】
国際政治学者のイアン・ブレマー氏はロイターのコラムで、中国が「困っている隣国」フィリピンを助けようとしないのはなぜか、と疑問を投げかけている。
同氏はその答えとして、中国が領土問題でフィリピンと対立しているというだけでなく、同国は海外援助の経験が浅く、また国内の実情は貧しい新興国だからだ、と推察している。
実際、経済的成功にもかかわらず、中国の実態はいまだ貧しい。個人収入は2012年にやっと9000ドルに達したが、それでも世界で90番目だ。全国民のうち約1億3000万人は、一日を1.8ドル以下で過ごしているという。
同氏はさらに根本的な問題として、中国はアメリカと異なり、外国支援を進める考えも、組織的基盤もないのではとみている。今後、“貧しい”中国が世界一の経済大国になり、災害支援を行わないような国となることに懸念を示した。