原発汚染水300トン漏れ 東電対応に限界か
放射性物質によって汚染された地下水の海洋流出が明らかになったばかりの福島第1原子力発電所で、20日、さらなる汚染水漏れが発覚した。東電が、貯蔵タンクからおよそ300トンの高濃度放射能汚染水が漏れたことを認めたのだ。2011年の震災で原子炉3基がメルトダウンを起こして以来、最大規模の汚染水漏れを受け、事故後初めて、レベル1の放射能漏れというINES尺度による暫定評価が行われた。
【高濃度汚染水の流出】
ウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、汚染地下水の流出を食い止める目途が立たないさなかの、漏出発覚のきっかけは、19日、作業員が原子炉の冷却に使った後の汚染水を貯蔵するタンク付近で、「水たまり」に気づいたことだったという。
これを調査したところ、容量1000トンのタンクに入っていた汚染水は700トンでしかなく、300トンの漏れが明らかになった。「安全規準の数百倍も高い」セシウムやストロンチウムで汚染された水の流出を食い止めるべく、作業員はタンク周辺への土嚢積み上げに急いだという。
こうした作業によって、「海にはおそらく流れ込んでいない」と東電は推定している。その根拠は、「海に流出する際に最も通過する可能性の高い側溝の放射線量がそれほど上がっていない」というあいまいなもので、海岸沿いからわずか450メートルほどしかない周辺の土壌に吸い込まれた大量の汚染水が、今後、地下水に混じって海にたどり着かないとは限らない状況だ。
<「5年はもつ」はずだったタンクからの漏出>
ニューヨーク・タイムズ紙は、東電がこれらの汚染水貯蔵タンクが「少なくとも5年はもつ」と太鼓判を押していたことを伝えている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、問題のタンクが、4月に漏出が発覚した地下貯水槽に保管していた汚染水を移送するために急きょ設置された350基の貯蔵タンクの1つであり、それ以前に設置されていたタンクほど頑丈でないという、東電の広報担当者の釈明を報じているが、だからいいというものではなく、同紙によれば、小規模ながら同様の漏出はすでに作業員によって4度も確認されているという。
さらに、原発の設計に詳しい法政大学の宮野廣氏は、もしも再度の地震や津波に見舞われれば、これらのタンクはひとたまりもなく、大量の漏出が発生するだろうと指摘している。
【1月以来5度目の漏出発覚 東電の管理能力に限界か】
1月以来、5度目となる同様の放射性物質の漏出発覚は、かねてよりささやかれてきた「東電の原発管理能力の欠如」を露呈するものだとの見方が強いようだ。フィナンシャル・タイムズ紙は去年、政府が1兆円を投じて東電を実質国有化していること、そのほかに、廃炉処理に携わるロボット開発に税金を投じる決定を下していること、さらに、先日の汚染水海洋流出発覚時に安倍首相が「もはや東電任せにしておくわけにはいかない」と述べたことを報じ、政府の「喫緊の」取組が求められていることを示唆した。
【管理体制の甘さで黄色信号?! 原発再稼働と汚染水の最終処分】
度重なる「不始末」は、放射能漏れに対する不安を募らせている国民や近隣諸国を刺激するもので、安倍首相の目論見や、福島第一原発の廃炉に向けた「放射能汚染水の最終処分」に黄色信号をともしかねないと、各紙は示唆している。
フィナンシャル・タイムズ紙は震災前、日本の電力の30%が原発でまかなわれていたことを紹介し、それが不可能になった現在、化石燃料の輸入額が18兆円から24兆円に急増しており、日本の貿易収支を赤字に押し下げていると指摘。12月に政権を奪取した安倍氏が、民主党の「2030年の脱原発化」という目標を白紙に戻し、再稼働を急いでいると伝えている。6月の参院選での大勝を受けて、「原発なしには日本経済の生き残りは不可能だ」との安倍氏のスタンスがより鮮明になっているとの見方だ。
一方、ニューヨーク・タイムズ紙は、「いつの時点か」で、ろ過などの手段によって汚染の程度を下げた汚染水を海に放出する他に手段はないとの専門家の指摘を紹介。度重なる不祥事が、これまで計画を阻んできた、地元の漁業関係者を刺激するのはもちろん、国民全体の東電への目をさらに厳しくさせ、「汚染水放出」へのコンセンサスの醸成を困難にするとの懸念を伝えている。