結局「A級戦犯」のせい?海外紙が靖国参拝を問題視する理由
68年前、日本が戦争に負けた「終戦記念日」が近づくたびに、熱を帯び、国内外の注目を集める論議が一つある。首相および政府要人たちが、靖国神社に「参拝するか、しないか」だ。今年は、例年にも増して、注目と緊張が高まっているという。それには、以下のような背景がある。
・昨年末に首相の座に就いた安倍首相が、その際、第一次安倍内閣当時に中韓に配慮して参拝を自粛したことへの後悔の念を洩らしていたこと。
・同氏が自他ともに認めるタカ派であり、日本の軍備の必要性や憲法改正を持論とし、河野談話の見直しをほのめかしている人物であること。
・領土問題のこじれによって、近隣諸国との緊張がかつてないほどに高まっていること。
海外各紙はそれぞれの立場から、この問題をとりあげている。
【安倍首相の見解と今後の動向】
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、4月、靖国神社の春季例大祭に合わせて、麻生氏ら4名の閣僚が参拝した際、中韓の猛反発を受けた軽挙を非難する野党議員に対し、安倍首相が、「国のために尊い命を落とした英霊に尊崇の念を表するのは当たり前だ。わが閣僚はどんな脅かしにも屈しない。その自由は確保している。当然だろう」と述べたことを紹介している。
ただし、各紙とも、安倍首相は15日に参拝しないとの見方で共通している。根拠は、冷静な実際家という安倍氏のもう一つの顔だ。第一次安倍内閣当時も、前任の小泉純一郎首相が終戦記念日の参拝を強行し関係悪化を招いたことを受け、両国との関係修復を優先していた。尖閣問題、竹島問題などで冷え込んだ中韓との関係をこれ以上悪化させ、第一に優先すべき経済問題を後回しにしてまで参拝することはないだろうとの見方が強いという。
しかし、8月15日には参拝しなくても、今なお、首相在任中の参拝希望をにおわせていることから、秋の秋季例大祭への参拝の可能性が取沙汰されている。
【各国の見解】
中国・韓国には、政府要人の靖国神社参拝は「戦時という歴史に対する反省の欠如の表れ」と映っているようだ。
<中国>
中国外務省の洪磊報道官は今月、「靖国神社問題は日本が侵略の歴史を直視し、反省できるか否か、中国を含む無数の被害国人民の感情を尊重できるか否かに関わる」と述べた。
また、タイム誌は、人民日報傘下のグローバル・タイムズ紙の報道を引用。「日本の政治家の多くが靖国参拝を、『戦死者への慰霊』というよりも『政治的なポイント稼ぎ』として行っている」とし、「しかし、それは、日本を害しかねない火遊びであり、中国や韓国の感情を著しく悪化させる危険な行為だ」との意見を紹介した。
<韓国>
韓国の識者は「靖国は、日本の過去に対する謝罪拒否の象徴だ」とし、「現在の日韓両国関係はかつてないほど冷え込んでいる。麻生氏、あるいは、安倍首相が参拝を強行すれば、さらなる関係悪化を招くだろう」と断言している。
<米国>
米国の閣僚は、安倍氏の靖国神社への思い入れが、領土問題、従軍慰安婦問題などでただでさえ悪化した隣国との関係にさらに深いひびを入れるのではないかとの懸念を強めているという。
【靖国神社はなぜ、論議の的になってしまうのか】
<なにが違う? 靖国とアーリントン>
ブルームバーグは、こうした国外の意見や懸念に対し、日本の政治家から出がちな反論として、「祖国のために命を散らした英霊のために祈って何が悪い? 米国の(戦死者を弔う)アーリントン墓地とどこがちがう?」という意見を紹介。ただし、これが「危険な勘違い」だと切り捨てている。
ブルームバーグによれば、靖国神社は日本の戦時中の侵略的な見解のまさに「中心地(グラウンド・ゼロ)」であり、天皇を神格化する神道国家の司令塔的な存在だったとみている。
また、母体は私的な団体に過ぎず、1978年にはこっそりとA級戦犯14名の合祀を強行している。この団体が運営する「遊就館」では、第二次世界大戦を美化し、日本人のノスタルジーを煽るような展示物が並んでおり、「神社」の政治的な使命を浮き彫りにしていると説明した。
さらに、神道国家の頂点に座していた昭和天皇が、1978年のA級戦犯合祀以来、「汚された」神社への参拝をやめたこと、今上天皇が今なおその方針を貫いていることも、こうした事実を物語っているという。
<戦死者を弔うならば>
ブルームバーグはさらに、戦死者を弔うならば、「アーリントン」に匹敵する公的な場所が日本にはあるはずだと指摘。その場所、「千鳥ケ淵戦没者墓苑」での公的な戦死者慰霊こそが、安倍首相が、不毛な議論に金輪際終止符を打つためにとるべき道だと勧めている。
なお、「千鳥ケ淵戦没者墓苑」は、1959年、第二次世界大戦時に海外戦地で亡くなった方々のうち、身元が不明の遺骨や引き取り手のない遺骨を安置するためにつくられた。35万8260柱の遺骨が奉安されている(5月27日現在)。
靖国神社には、1853年以降、明治維新や日清戦争、日露戦争、第二次世界大戦時などの際に亡くなられた246万6千余柱の方々が祀られている。