なぜ、中国はニュージーランドの粉ミルクを輸入禁止にしたのか?
3日、ニュージーランドの乳業最大手フォンテラ社の発表が、中国の消費者にショックを与えた。乳幼児向けミルクなどが、ボツリヌス菌の一種に汚染されていたというのだ。昨年5月の製造時に、工場の製造ラインの一部の汚損により菌が混入した可能性があるという。
ニュージーランドのグローサー貿易相は、5日の記者会見で、中国とロシアが暫定的に全ての同国産乳製品の購入を停止したと発表した。
【菌は死滅の可能性大】
フォンテラ社によれば、今回問題となった38トンは他社販売向けで、同社製品には混入していないが、他の原材料に混じって870トン相当分の製品となり、すでにニュージーランド、オーストラリア、中国、サウジアラビア、マレーシア、ベトナムなどで販売されているという。
同社は、これまで健康被害の報告はなく、未だ回収されていない原材料についても、菌は製品化される過程の高温処理によって死滅するため問題はないと説明している。
しかし、新華社通信は、今回発見されたボツリヌス菌は、加工、パッケージ、保管などのいずれかに不備があれば、缶入り製品内でも増殖する可能性があるとの専門家の談を紹介。1歳未満の乳児にとっては大きな脅威だとしている。めったにないとはいえ、罹患すれば、吐き気、嘔吐、眼瞼下垂、咀嚼の困難、麻痺などの症状を呈し、命の危険もあるという。
【中国当局の対応】
ことを重大視した中国は、フォンテラ社が調整粉乳に利用している乳製品原料粉末と乳清タンパクの輸入を停止した。当局の説明によれば、ニュージーランド側が説明したような全てのフォンテラ社粉ミルク製品の輸入停止ではないものの、 国の直属機関である国家質量監督検験検疫総局(AQSIQ)は、ニュージーランド産の乳清タンパクの輸入元である中国最大の飲食品会社である浙江省の 杭州娃哈哈(ワハハ)保健食品など4社にリコールを命じている。
また、仏食品大手ダノン傘下のデュメックス社もフォンテラ社から大量の原材料を仕入れて自社製品を製造しているメーカーの1つで、汚染の恐れのある原材料を使って、700トン以上の粉ミルク製品を製造し、そのうち420トン余りがすでに中国の国内市場で販売されている。上海当局は、デュメックス社に関連製品のリコールと販売記録の追跡を命じた。4日の午後には、デュメックスの関連製品が、上海のスーパーの棚から消えるなど、事態は世界的に波紋を広げているようだ。
【中国当局の迅速な措置の背景とは?】
中国当局が今回、迅速な措置に踏み切った背景には、近年、中国の乳幼児用ミルクが、相次ぐ不祥事に見舞われてきたことがある。2008年には、国内メーカー品へのメラミン混入が発覚し、6人の乳児が死亡し、数千人規模の被害者を出す騒動となった。以後、国産メーカーを見限った中国の消費者は海外メーカーに殺到した。一部には、大量の海外メーカー粉ミルクを買い付け、国内で転売する動きが活性化したため、英国、香港などが、個人の粉ミルクの購入量に上限を設けるに至ったほどだという。
こうして、急増した粉ミルクの輸入量のなかでも、躍進著しいのが、ニュージーランド産の粉ミルク製品および原材料だった。中国の輸入ミルクの90%以上を占め、なかでも、フォンテラ社は最大の供給元だった。
【フォンテラ社とニュージーランドの苦境】
実は、今回のボツリヌス菌混入騒動はフォンテラ社にとって、今年2度目のスキャンダルだという。1月に、低毒性の化学物質が混入した形跡があると発表していたためだ。
フォンテラ社はニュージーランドで生産されるミルクの大半を扱う最大手企業であり、相次ぐスキャンダルは、同社、同国にとって、これまで培ってきた「100%ピュア」の高品質イメージの失墜を意味すると、フィナンシャル・タイムズは警鐘を鳴らしている。ニュージーランドの、年間約95億ドルの乳製品の輸出量のうち、5分の1の行き先である中国での「信用失墜」は、同国の経済を揺るがしかねない危機だと、専門家は指摘する。
【どうなる、ニュージーランド経済?】
ブルームバーグ紙は、事態がニュージーランド経済に及ぼす影響に注目した。
専門家も、少なくとも短期的にはニュージーランド経済に打撃を及ぼすのは必至と見ている。実際、NZドルは7月8日以来の安値に下落し、フォンテラ社の株価も昨年の上場以来最大の下落幅を見せているという。
グローサー貿易相は、今回の事態の重要性と危険度を十分に認識しつつも、ニュージーランド経済の先行きを絶望視するには時期尚早との見方を示している。
この点、専門家は、なによりも鍵を握るのは、今後数週間内に「世界中で起きること、起きないこと」そして、「フォンテラ社の対応」だと分析している。
フォンテラ社のテオ・スピアリングス最高経営責任者は5日、北京で謝罪し、記者会見を行って追加情報を提供するとした。
全世界の消費者が、同社の対応をいかに評価するのかが注目される。