アップル下請け中国企業 過酷な労働実態とは?
米国に拠点を置く非営利の労働権利団体、チャイナ・レイバー・ウォッチ(CLW)は7月29日、アップル社の製品製造を請け負うサプライヤーの中国工場で、労働者の権利が「著しく」侵害されているとの調査報告を発表した。
槍玉に上がったのは、台湾の設計・製造受託サービス業者、ペガトロン(和碩聯合科技)。
アップル製品の製造は、長年、同じく台湾のフォックスコン(富士康科技集団)が、一手に引き受けてきた。しかし、その厳しすぎる労働環境に耐えかねた労働者の自殺が相次いだ問題や、製品が大量にアップル社の基準を満たしていないとして返品された問題などに絡み、アップル社はフォックスコンへの委託を大幅に減らすことを決定。
代わりに白羽の矢が立ったのが、ペガトロンだった。同社は、今年後半に発売予定と見られる廉価版iPhoneの製造を手がけているという。
【フォックスコンよりもひどい? ペガトロンの従業員待遇】
ガーディアン紙の報道によると、今回、CLWは覆面調査官を従業員に紛れ込ませて上海と江蘇州にあるペガトロンの3つの工場に送り込み、200件以上のインタビューを行ったとしている。
60ページに及ぶ報告書には、下記のような問題点が記されている。
・週66~69時間に及ぶ長時間労働(中国の法律による制限は49時間。アップルの自社基準では60時間)
・妊婦の長時間の立ちっぱなしの労働といった女性権利の侵害
・法的基準に満たない未成年者の就労
・時給が1ドル50セントに過ぎず、労働者を自主的な「超過労働」に走らせる不当な低賃金
・すし詰め状態の劣悪な労働環境と居住環境
・ニットの手袋のみで危険な溶剤を扱わされるなどの健康と安全面の問題
・監督者による脅しや虐待などの労働基準・規定違反
CLWの幹部は、「フォックスコンをもしのぐ過酷さ」だと表現しているという。
【ペガトロンの事情と釈明】
ペガトロンはCLWの発表を受けて、その多くは「事実ではない」と否定した。ただ、疑惑については「徹底的に調査し、中国の労働法や自社の行動規範に違反していた場合は直ちに是正する」と述べている。
フォックスコンは、従業員の自殺問題などで労働環境の改善を強いられ、生産コストが上昇。その好機を逃さず、「秘密保持」と「コスト安」を武器に、ペガトロンは後釜に座った形だ。
だがそこには、操業規模の小ささゆえに、大規模な調査を免れてきたという事情があったと、ウォール・ストリート・ジャーナルは指摘している。今や、世界中のiPhoneとiPodの三分の一を製造していると見られる同社では、業務の拡大に伴って、3月、従業員数を5万人から7万人に増員していた。
さらに同社には、沿岸沿いの労働者が中国西部の工場に流れるなか、従業員の募集を、第三者の斡旋業者に頼らざるを得ないという事情があった。今回「従業員への虐待」とみなされた、一定期間満了前に退職した場合に給与を天引きするなどの行為は、こうした斡旋業者によるものだとペガトロンは弁明している。さらに同社は、福利厚生費の支給漏れもこの業者の責任だとしている。
ただし、フィナンシャル・タイムズ紙は、今回同時に「環境汚染」を指摘された同社の子会社の工場が、すでに今年の2月に、工業汚染水の川への垂れ流しを地元上海当局に確認され、罰金と操業停止を命じられたと報道。依然として汚染水が排水され川が乳白色になっているとの地元住民の声を紹介して、同社の悪質な体質を示唆している。
【アップル社の釈明と今後の対策】
アップル社は、「全世界のサプライヤーで働く従業員に、快適な労働環境を提供する所存である」との同社の方針と、遺憾の意を表明した。
同社は2007年以降、抜き打ち検査も含めてペガトロンの工場監査を15回実施。今回の一部の指摘についても確認済みで、是正を申し入れているとした。一方、今回のCLWの報告の多くは「初めて聞かされる内容」であるとして、現地監査を含め徹底的な調査をする意向だ。
昨年末、クックCEOが、海外の低コストの労働につきものの不安定性を指摘し、「製品と同様、製品への責任についても、革新的でありたい」と述べて、2013年には製造の一部をアメリカに移すとしていたアップル。またも噴出した海外サプライヤーの不祥事は、「アップル水準」を世界で守ることの難しさ、低コストで複雑な製品を製造することの困難を浮き彫りにしたといえる。