エジプト、新体制めぐり混乱 安定化の見通しは?

 エジプトでは、6月30日から反大統領デモが、急激に大規模化していた。ついには、しばらく表舞台から去っていた軍部が再び乗り出して、3日に憲法停止を宣言。さらにモルシ大統領の権限を事実上剥奪し、マンスール憲法裁判所長官を暫定大統領に指名すると表明するに至った。

 とはいえ、これを「結末」と呼ぶには時期尚早かもしれないと、海外各紙は警告している。
 軍部によってモルシ氏とその側近が拘束されたことを受け、支持派は、「これは軍事クーデターだ」と反発を強めている。支持派は、民主主義的な手続きによって選ばれた「正当な」大統領が、裁判等の正当な手続きもなく逮捕され、拘束されることを非難。大統領が拘束されているとみられる共和国防衛隊の施設付近に押しかけて、「モルシ氏の復権」を求めていると伝えられる。
 一方、反モルシ派らは、「これは(クーデターなどではなく)革命だ!」として、勝利と軍トップのシシ国防相を讃える雄叫びを上げ、国のあちこちで街を練り歩いているという。

【急がれる新体制作りとその難航】
 こうしたなか、シシ氏は、自らへの支持を追い風に、「クーデター」のそしりが強まる前の「新体制作り」を急いでいるとの報もある。
 実際、当初から「首相」の第一候補として有力視されていた、ノーベル平和賞受賞者で国際原子力機関(IAEA)の前事務局長であるエルバラダイ氏が暫定首相に任命されたとの報が、同氏が率いる世俗派の野党勢力「救国共同戦線」から早々に発表された。
 これについてマンスール暫定大統領筋は否定したものの、「理にかなった人選」との見方を示していたという。

 ところが、計画はここで頓挫する。イスラム教保守派ヌール党(光の党)の猛反発により、就任式がキャンセルに至ったのだ。同党の主張によれば、エルバラダイ氏は、そもそも、昨年の大統領選でいったん出馬を表明したときから、一貫して「モルシ氏の対抗馬」との役割を演じてきた「反モルシ」の象徴だ。そうした極端な色付けをされた人物が首相の座につくことは、モルシ氏を追放して成し遂げるはずの「すべてのエジプト人が参加する、真の民主主義」からほど遠く、これが「クーデター」ではないという説得力に欠けるというのだ。

 これを受け、再人事が検討されたと、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は伝えている。同紙によれば、7日、世俗派諸政党や光の党の指導者による長時間の交渉の末、エコノミストで社会民主党のジアード・バハーエルディン氏を暫定首相候補とすることで合意したという。エルバラダイ氏については、複数の暫定副大統領の1人として推薦される見通しとのことだ。

 しかし正式な任命のためには、マンスール暫定大統領の正式な指名と、両氏の受諾という手続きが必要であり、順当にことが運ぶかどうかは未定だと同視は示唆している。なお、両氏とも、未だ受諾するかどうかを表明してはいない。

【バハーエルディン氏の人物像】
 バハーエルディン氏は、エジプトの中央銀行の理事会メンバーや金融規制機関のトップを務めたエコノミストであると伝えられる。エジプト革命直後に辞任し、社会民主党の創立に関わった。昨年の選挙で議員に選出されていた。

 米外交問題評議会からも、人物や能力については「エジプト国内での公職の経験のないエルバラダイ氏よりもふさわしい」との声が上がっている。一方問題は、比較的知名度の低い同氏が、この難局において十分な求心力を発揮できるかどうかだと同紙は分析している。

【エジプト経済の苦境】
 フィナンシャル・タイムズ紙は、新体制作りが急がれるもう一つの強力な理由として、エジプト経済のさらなる悪化を挙げた。
 同紙によると、同国の外貨準備高は、ムバラク前大統領を退陣に追い込んだ2011年の抗議デモ発生以降、減少の一途をたどっている。観光客や投資家のエジプト離れが起こり、ドル流入が減少したことが影響している。
 中央銀行が日曜日に発表したところでは、同国の6月末の外貨と金の準備高は、1ヶ月前の160億ドルから、149億ドルにまで落ち込んでいるという。なお、反ムバラク政権の機運が高まりつつあった2011年1月時点では、360億ドルあった。
 これは、国際通貨基金(IMF)が最低限必要としている3ヶ月の輸入額を下回っているうえに、その半分は利用しやすい現金や証券類となっているという。

 こうしたなか、エジプト中央銀行のラメズ総裁は、国民に向けて募金の呼びかけをすると共に、資金援助を求めて、中東行脚に出たという。
 同氏の最初の目的地は、2011年に30億ドルの援助を確約しながら履行していないアラブ首長国連邦だという。次は打倒モルシ政権の主要な支援国だったと伝えられる、サウジアラビアだと憶測されている。エジプトメディアは、5億ドルの融資に合意したという同国高官の談を伝えているようだ。
 一方、モルシ氏とムスリム同胞団の最大の援助国として、モルシ政権への80億ドルの援助を確約していたカタールに同氏が赴くかは不明だという。

【不透明感たちこめるエジプトの未来】
 しかし、こうした資金援助も、安定政権あればこそ。経済に明るいバハーエルディン氏の首相就任は、こうした意味からも朗報だとの分析もある。
 一方、アル・ジャジーラが伝えたところによれば、「光の党」はサラフィー(イスラム復古)主義であり、その点において、モルシ氏やムスリム同胞団と同視されて排除されることを強く懸念しているという。
 その意味においても、今後も、「反モルシ派」への反発は必至であると思われ、バハーエルディン氏の首相就任にも反対する可能性は否定できない。
 今後もエジプトの政治・経済両面で波瀾はまだまだ続くと予想される。エジプトは、いつトンネルを抜けられるのか。予断を許さない状況が続く。

Text by NewSphere 編集部