仕掛け人も驚いた、100万人デモ ブラジルW杯は大丈夫か?

 ブラジルのデモは20日、全国80都市以上に拡大、参加者は100万人を超える規模となった。10円ほどのバス運賃の値上げに反発した草の根運動機関「フリー・フェア・ムーブメント(無賃運動)」が仕掛けたデモは、すでに同団体の手を離れ、汚職や腐敗、賃金格差、貧弱な福祉や教育などの根深い不満要素を巻き込んで、混沌とした様相を呈しつつあるようだ。実際、19日、地元当局が値上げ撤回の決定を下したあとも、デモは沈静化するどころか一層の拡がりを見せている。
 海外各紙は、仕掛け人の声、ルセフ大統領と政府与党の対応、ワールドカップの行方などの観点から、過去に類をみないと言われるブラジルの大規模デモを分析した。

【デモの仕掛け人も驚く大規模化】
 ニューヨーク・タイムズ紙は、今回のデモを仕掛けたフリー・フェア・ムーブメントの若き運動員たちが、2005年の創設以来デモの組織を手がけてきた「キャリア」をもってしても到底予想できなかった、大規模デモへの「成長」に、驚いていると報じた。

 同紙は、参加者の動機として下記を挙げている。
・福祉や教育がままならないなかで、ワールドカップ開催に大金を投ずる政府への怒り
・貧困に喘ぐ人々への助けの手が届いていないことへのやりきれなさ
・若い人々が「変革」を求める気持ちへの共感

 結果的には、「フラストレーションや怒りという原動力こそ共通ながら、動機も要求も、極端に多様化、拡散化しているため、政治家がどう応えればよいのかもわからなくなっている」と現地の様子を描写した。
 社会運動の専門家はこの現状を、「あたかも、突然、ある種の音楽が一気に流行するようなもの。この先、いつ、どうなるかを知るための理論はない」と分析しているという。
 ただし、デモの中核を担う運動員たちは、この動きを、「長年の積み重ねが結実した、人々の意識の変化」と位置付け、「目覚めた」人々の今後に期待を寄せているという。
 
【矛盾をはらんだ大統領、政府、与党の動き】
 一方、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、ある種「得体のしれない」デモへの対応に苦慮する政府の様子を伝えている。
 今回ブラジル政府は、トルコに代表される「デモをねじ伏せる強硬姿勢」とは正反対の、「デモに共感し、その高い意識を賞賛する」方向性を選択した。これには、過去10年以上政権を担っている現与党労働者党は、その成り立ちにおいて、「抗議活動のなかで台頭してきた」という歴史を持っており、支持基盤である労働者階級と乖離するわけにはいかないという事情があるという。
 しかし、今回は、単に「認める」域にはとどまらず、党が指示を出して党員をデモに参加させるに至っている模様だ。
 ルイ・ファルカオ党首は自身のウェブサイトで、公共の交通機関のための戦いは、労働党の歴史的な旗印だとし、「労働党は街に出る!」と宣言したとされる。

 しかし、デモの拡大につれ、一部でデモ隊と衝突した警官隊が催涙ガスなどを用いるなど、暴力的な様相を呈しつつある現状からすると、「施政者」である政権担当者がデモに参加しているという「矛盾」が国民の理解を得られるかは微妙な情勢だ。

 実際、「次の選挙戦に向けての票稼ぎ」との声も上がっており、そもそも、人々の不満を醸成、爆発させた「民主主義を標榜する一方で変わらない不公平な縁故主義」や、「検察官から、汚職摘発の権限を奪う法律が可決される見通し」などの原因を放置している現政権の非が指摘されている。
 また、ルセフ大統領が公の場に姿を見せないことに対しても、「対応の失敗」を暗示するものとの分析がなされた。

【ワールドカップは無事開催できるのか?】
 フィナンシャル・タイムズ紙は、今回のデモがFIFAとブラジルの関係を悪化させる危険を報じ、ワールドカップの行方を危惧する報道を行った。
 同紙によれば、そもそもデモ参加者は、「ワールドカップ」を標的としていたわけではない。しかし、汚職や貧富の差などへの不満が、必然的に、「ワールドカップ」という莫大な公費を投じる一大事業という「象徴」に集中し、今後の運営を揺るがしかねない空気が生じているという。
 今のところFIFAは、「ブラジル政府の問題」として静観の構えを見せている。ただし、もともと「FIFAのやり方で仕切る」ことを好む体質上、混沌としたブラジルの現状には相当の不満を持っているとみられ、今後の情勢が注視される。

Text by NewSphere 編集部