なぜ今?オバマ「核削減」提案を海外紙が厳しく分析

 オバマ米大統領は19日、ベルリンのブランデンブルグ門で演説を行った。同地は、歴代の米大統領が歴史に残る名スピーチを残したことで知られる。冷戦下に、ケネディ大統領が、東西に分断された街、ベルリンに思いを寄せて“Ich bin Berliner.”と語り、レーガン大統領がゴルバチョフ大統領に向かって「この壁を崩してみせよ」と迫ったこの地は、オバマ大統領が5年前に、黒人として初めての大統領候補者としての訪独の際に、演説を許可されなかった因縁の場所でもある。

 オバマ大統領の演説の内容は、歴史に残りうるものだったのか。その内容はどう受け止められたのか。海外各紙が分析した。

【核兵器の削減】
 大統領の、満を辞しての演説の中心的な内容は、「核兵器の削減」。当時、ケネディ大統領が、「アメリカは核によってあなたがた(ヨーロッパ)を守る」と語って喝采を浴びたことを振り返れば、隔世の感があると、各紙は指摘した。
 大統領は、ケネディ大統領が用いたもう一つのフレーズ、「正義を伴った平和」をひもとき、「包括的な見地からすれば、アメリカと同盟国の安全を保障し、強く、信頼できる戦略的抑止力を維持しながら、現在配備されている戦略的核兵器を最大3分の1まで削減することが可能だとの結論に至った」と述べて、ロシアに相互の核兵器削減を呼びかけた。

【指摘される課題】
 しかし、今回の提案には、いくつかの課題が指摘されている。
 第一に、その規模が、ロシアにすんなり受け入れられるとは思えないこと。
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙の指摘によれば、ロシアでは、自国が通常兵器を大幅削減した一方で、米国の通常兵器が強大化していることや、米国のミサイル防衛(MD)計画に対する警戒心が増大している。そのため、防衛態勢において大きなウェイトを占める核兵器の削減に応じにくい状況だという。実際、プーチン大統領やロゴジン副首相はこうした点を指摘し、オバマ大統領の提案を「受け入れがたい」とする態度を表明している。
 さらに、ウシャコフ大統領補佐官(外交担当)は、冷戦時代とは異なり、核保有国が米ロには限られない現状を顧みれば、交渉にはすべての核大国が加わるべきだとの認識を表明したという。

 第二に、最終的には核兵器の廃絶をと言いつつも、言及があくまで「核配備の削減」に限られること。
 ニューヨーク・タイムズ紙は、アメリカ科学者連盟のハンス・クリステンセン氏がこの点を指摘し、プラハにおける「核なき世界」の演説に比べてスケールダウンした、と批判していることを紹介した。
 核兵器廃絶運動で知られる民主党上院議員のサム・ナン氏は、「規模も、数も増加しつつある核保有国が、国際的な難関に直面している現在、「抑止力」の歯止めもむなしく核兵器が用いられてしまう危険は増加している」と指摘し、「あまりにも遅きに失した」と苦言を呈した。ただ、米国が他国に働きかけて核兵器削減を言明することは評価している模様だ。
 同紙はまた、たとえ利害の対立や舌戦があったとしても、努力を続ける意義を論じている。例として、「ナン・ルーガー・プログラム」(ロシアの核兵器管理体制強化と核の廃棄に、米国が協力)が、一時ロシア側の反発によって失効の危機に瀕しつつも、瀬戸際の努力によって存続し、核兵器削減に寄与した経緯を紹介している。

【情報監視プログラムの存在】
 フィナンシャル・タイムズ紙は、オバマ大統領が、先にメルケル独首相が懸念を表明し、訪独に伴う会談で俎上に上げられることが確実視されていた「情報監視プログラム」についても言及したことをとりあげている。
 大統領は、このプログラムが、ドイツ国民の自由やプライバシーを阻害するものではなく、非常に限定的な、安全保障上の目的のみに資することを改めて訴えた。
 メルケル首相は、オバマ大統領との円満な関係を誇示しつつ、「国境を越えて情報を収集する幕のようなもの」の存在への人々の懸念を指摘し、今後も協議していく必要があると釘を刺したという。

 19日のベルリンは暑かった。その暑さのなか、4500人の聴衆が、オバマ大統領の演説を聴くために集まった。
 演説後、メルケル首相が主催した晩餐会で、オバマ大統領は、「ケネディ大統領の演説を聴いた1000人の民衆が、暑さではなく、感激のあまりに気絶した」との新聞記事に触れ、「今日、気絶した人は、いたとしても数人だった。しかも、スピーチではなく気候のせいだ」と冗談交じりに自己分析をしたという。
 各紙の評価も概ね同じで「素晴らしくはないが、悪くはない」とのもの。歴史に残るかどうかは、今後の「実行力」にかかっているといえそうだ。

Text by NewSphere 編集部