【G8サミット】海外紙の論点は、シリア内戦と「税逃れ」問題

 英国・北アイルランドで開かれていた主要国首脳会議(G8サミット)は18日、閉幕した。特に重要議題として注目を集めたのは、長引くシリア内戦に対する各国の対応、不安定な世界経済、多国籍企業による「税逃れ」対策だった。
 これらの点について、各国首脳の駆け引きや合意へのプロセス、首脳宣言として採択された内容などに、海外各紙が注目した。なお日本紙の論点は、アベノミクスとシリア内戦だった。

【Google、Apple、Amazon・・・名だたる多国籍企業の税金逃れは防げるのか】
〈問題点と解決のための合意点〉
 多国籍企業が、低税率国に子会社を設立し、特許や商標権などの知的財産を譲渡することで、納税額を圧縮する手法に代表される「課税逃れ」は、企業にとって半ば「常識」とされる合法的な節税対策だった。
 しかし最近、Google、Apple、Amazonスターバックスなど、大企業の大規模な課税逃れが相次いで発覚し、緊縮財政に苦しむ欧米を中心に、批判と反発が拡大。今回のG8サミットでは、議長国のキャメロン英首相が「最重要課題」と位置づけていたという。
 多国籍企業の脱税で巨額の税収を失っているとされるアフリカ首脳も招いて、対策が協議された。閉幕にあたり、キャメロン英首相は、「我々は多国籍企業がどこで収益を上げ、どこで税金を払っているのかを明らかにし、正当な負担を負っていない者を暴くための、新たな国際的なメカニズムの構築で合意した」と述べたという。
 具体的には、各国の税務当局が、そのつど要請をしなくても銀行口座などの情報を自動的に交換できるルールや、脱税を処罰するための多国間の制度づくりへの協力のほか、節税に使われる「ペーパー・カンパニー」の実質的な所有者を明らかにする方向性が確認された。企業の経済活動について、当局に報告させる共通のひな型づくりも進められる。
 こうした動きについて、IMFのラガルド専務理事は、首脳会談でこの問題に一石が投じられたことへの評価を表明した。

〈各方面から指摘された「詰めの甘さ」〉
 しかし、手放しで評価できる内容かといえば、疑問視する向きも多数ある模様。ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、オランド仏大統領は、実質的所有者の中央登録機関の創設について不透明なままであることに苦言を呈したという。さらに、これから具体的な施策を詰める必要があるが、新興国から「そんな余裕はない」との反発の声が上がっているという。
 またフィナンシャル・タイムズ紙は、今後すぐに、実質的所有者についての「行動計画」の発行に着手する国がある一方で、ロシア、ドイツ、日本は今年の後半に先送りする予定だとし、問題に取り組む姿勢に温度差があることを示唆している。

〈多国籍企業の思惑〉
 そもそもこの問題には、各国とも税収を求める一方で、税負担を軽くすることで企業を誘致したいという利害が絡むため、今後の進展にも難局が予想される。
 一方、多国籍企業側は、こうした動きに「プライバシーの侵害を伴う」として反発。さらには、この動きを逆手にとって、先進国中最も高い課税額(35%)で知られるアメリカの税額を下げさせ、海外での収益にも課税する、先進国ではまれなシステムを刷新しようとの目論見も透けて見えると報じられている。

【米欧と露の溝は埋まらず-シリア問題】
 一方、ニューヨーク・タイムズ紙はシリア問題に注目。シリア内戦は、国連の最近の推定によれば、これまでに9万3000人の死者を出したとされる。先ごろアメリカは、シリア政府の化学兵器使用を断定し、介入姿勢を鮮明にしたものの、アサド政権を支持するロシアは「一層の混乱を招く」と批判している。
 しかも、匿名の西側高官の情報によれば、6月に予定されていたジュネーブでの和平会談は、8月後半から9月に延期される見通しが強いという。それまでにロシアらのアサド政権支援が強化されれば、政府軍が、内部分裂を起こしつつある反政府軍を押さえられると見込まれるという。
 首脳宣言では、ロシアの「孤立」を浮き彫りにすることを嫌った格好で、化学兵器が使われたことへの非難と、国連への実態調査委託などの合意点が盛り込まれた模様。
 ロシア側への配慮として、アメリカと一部のEU諸国が主張した、「アサド退陣要求」は含まれず、一方で、アサド政権内部のメンバーに対し、「アサド大統領なき」新政府での居場所を用意すると示唆することで、暗に、アサド大統領を見放すよう求める内容は盛り込まれるなど、折衷点が探られたという。

 国際的な諸問題に対し、8ヶ国の首脳が、世界経済の牽引役として、大国としての責任を負う覚悟を表明し、そのための団結姿勢を見せた今回のサミット。その成果は、歓迎すべき点がある一方で、玉虫色の様相が目に付くと報じられた。
 シリア問題、税逃れ問題への今後の各国の取り組みが注目される。

Text by NewSphere 編集部