米最高裁、遺伝子に特許認めず バイオテクノロジー業界への影響は?
米連邦最高裁は13日、自然の遺伝子には特許は認められないとの判断を示して、2009年に検査会社ミリアド・ジェネティクス社に対して人権擁護団体が起こしていた裁判を締めくくった。これにより、同社が保持していた、乳がんと卵巣がんのリスクを高めるとされている2つの遺伝子に対する特許が取り消されることになる。
一方で、同様に取り消しが求められていた特許のうち、人体から取り出した後に人工的に手を加えて合成した、相補的な遺伝子に対するものには、特許を認めるとの判決が下された。
海外各紙は、830億ドル(約7.9兆円)規模とも言われるバイオテクノロジー産業における影響をまとめている。
【遺伝子に対する特許が、女性への不利益を助長していた】
特許が取り消された2つの遺伝子は、それを保持していることで乳がんと卵巣がんのリスクが50−80%(一般的なアメリカ人女性で12%程度)となることから、検査指標として有効であることがミリアド社によって発見されていた。同社は特許を取得し、乳がん・卵巣がんの検査市場を独占していたとフィナンシャル・タイムズ紙などは報じている。
しかし、その検査費用は3340ドル(約32万円)と高額であり、業界の発展と女性への不利益につながるとの批判が強まり、今回の裁判へとつながったという。
これに対し最高裁は、遺伝子自体は自然の産物であるとして、特許の対象にならないとの結論を出した。自然の原理や自然現象、抽象的なアイディアは発明ではなく、科学や技術の発展に活用されるべき基本的ツールだとの見解を示し、今後の進歩のためにも知的財産権による研究の障害を減らしていかなければならないと述べたとウォール・ストリート・ジャーナル紙は報じている。
今回の判決で、既に米国で承認されている4000の遺伝子の特許にも影響が出てくるだろう。特許による縛りが減れば、多くの企業や研究所が遺伝子分野での活躍の場を広げることが可能となり、検査費用の軽減や質の向上が期待できる。各紙は、こうした関連業界の歓迎の声を取り上げている。ニューヨーク・タイムズ紙によると、判決直後から少なくとも4社が乳がん検査の提供に乗り出すと発表しているという。
【人工的な合成遺伝子には特許が認められる】
最高裁の判決を歓迎する声が多く挙がる一方で、アムジェンやグラクソ・スミスクライン、モンサントのように、遺伝子研究に大規模な投資を行なってきた企業にとっては、今後の研究意欲が削がれかねないとフィナンシャル・タイムズ紙は報じている。
しかし最高裁は、人体から切り離して人工的に合成した相補的な遺伝子に関しては、研究者による発明であるとして特許を認めることで、今後も企業が研究に精進していくことを後押しした。ニューヨーク・タイムズ紙によると、遺伝子を切り離す技術や遺伝子の新たな活用方法については特許申請が可能とされているという。
双方の言い分をバランス良く汲み取った判決が出されたことで、今後のバイオテクノロジー分野の発展に期待が寄せられている。