ギリシャ国営放送、突然の閉鎖 その理由とは?
ギリシャの国営放送ERTは11日、政府により強制的に閉鎖された。閉局は一時的なものだと政府は説明しているが、これに反発する人々が数百人規模のデモを行っている。
ギリシャ政府は、ERTの労働組合に対し、余剰人員700人の自主的離職と600人の早期退職を実施することを求めたが、拒否された。そのため、今回の強制閉鎖に踏み切ったようだ。
ギリシャは多くの国営企業を抱えている。2009年の経済危機以降は国の財政再建のため、それら企業のリストラや民間への移行を勧めている。
財政再建をすすめようとするなかで国営放送の閉鎖に至ったギリシャの苦悩を海外各紙が報じている。
【脆い政権与党連合】
フィナンシャル・タイムズ紙は、サマラス首相は、EUと国際通貨基金(IMF)に約束した財政再建を実行するという姿勢をみせるため、大胆な行動をとったのだと指摘した。
しかし、ERTの閉鎖実施は、結びつきの弱い連立政権を脅かす政治的賭けでもある、とウォール・ストリート・ジャーナル紙は報じている。
実際、連立与党・全ギリシャ社会主義運動(PASOK)のベニゼロス党首は、党内からの反発を受け、サマラス首相に決定を取り消すよう求めていた。 ベニゼロス氏は、「緊急で、積極的なERTの構造改革は必要だが、閉鎖はせずに、改革のやり方について国会で承認を得ることが必要だ。」と述べたという。
サマラス首相とベニゼロス氏は、緊急協議を行い、協力を確認。連立が破綻し政権の弱体化が進めば、選挙を早める危険があるとの不安からだと、同紙は推測している。
その後、サマラス首相は急ぎERT改革に関する新しい法案作成を指示した。近いうちに審議入りする予定のようだ。首相は、ERTはより少ない人員と予算で再スタートする予定だと発言している。
【人気のない国営放送】
ERTは、1980年代の最盛期には多大な人気を得ていたが、ここ数年は冗長なニュース報道やドキュメンタリー番組、低予算の娯楽番組のため、視聴者離れが進んでいた。現在は、4つのテレビチャンネルと29のラジオ局を合わせても、20%以下の視聴者しかいないという。
人々は、人気ドラマや刺激的な報道をする他の民間放送を好んでいるようだとウォール・ストリート・ジャーナル紙が報じている。
また、長年の経営不振と政治との結びつきにより、多くのギリシャ国民がERTは政府のための無駄な広報機関と見ているという。そのため、不景気で人々の収入は減り税金は上がるのに、電気代に上乗せされる形で国が財政支援を続けていることに不満が高まっていたようだ。
なおERT局員たちは、インターネットなどを利用して配信を続けているという。ニューヨーク・タイムズ紙によると、ストゥルナラス財務相は12日、ERTの従業員が秘密裏に放送を続けることは違法で、閉鎖の命に従わなければ、「処罰を受ける」ことになると警告したという。