なぜトルコのメディアはデモを報じないのか?

 トルコでは、先週末、ゲジ公園の取り壊しに反対する小規模の抗議運動が反政府デモに発展し、全国60都市に広がった。実利一辺倒で有無を言わさない政府の経済発展策への反発は、首相の高圧姿勢や警官隊の容赦ない暴力によって激化し、エルドアン首相個人への怒りにも転じつつある模様だ。

 首相は、政権発足後初となる大規模なデモを目の当たりにしながら、あくまで小規模の暴徒の行動だとの高圧姿勢を崩していない。敬虔なイスラム教徒という磐石の支持基盤を持つ、自らの優位を誇り続けたという。挙句、「何事もないかのように」当初からの予定を変更することなく、北アフリカへの外遊に旅立った。

 エルドアン政権はすでに3期目を迎えており、同首相にこれ以上の再任はない。そのため、同首相は、来年は大統領の座につく意欲満々だ。それもあって、同首相の属する与党公正発展党(AKP)の重鎮であるギュル大統領とアルンチ副首相は、首相の留守中に事態の収束を図り、同首相の面子を無傷のまま守ろうと懸命の模様だという。
 その一端として、アルンチ副首相らは協議を行い、デモに対する警察の初動対応に「行き過ぎた暴力があった」として謝罪の意を表明した。

【デモ主導者の要望】
 一方、ニューヨーク・タイムズ紙の報道によると、中心的なデモ参加者は副首相に対し、要望書を提出した。その内容は以下だという。

・イスタンブール、首都アンカラ、ハタイの知事と、上記の都市における公安当局の長の辞任。
・拘留された抗議者の解放と、警察による催涙ガスの使用の中止。
・抗議のきっかけとなったタクシム広場の公園取り壊しを含むプロジェクトの撤回。

 ゲジ公園救済活動を率いるタクシム・ソリダリティは、副首相との面談後に記者会見を開き、副首相が要望書を受け取り、検討すると述べたことを発表した。
 ただし、政府はこれに対して何らコメントを発表してはおらず、その後も警察官による催涙ガスの使用はやんではいない様子だと伝えられる。
 こうした政府の対応からは、謝罪や軟化姿勢も、あくまで事態の収束という目標を達成するための方便に過ぎないことが透けて見え、かえって、広場に集結する人々の反感を買っている模様だ。
 実際、ツイッターを用いて動乱を助長したとして、36人の高校生や大学生が拘留され、1700人が尋問を受けており、これを「表現の自由に対する冒涜だ」とする声も上がっているという。

【非難の的となった報道機関】
 一方、フィナンシャル・タイムズ紙は、デモを一切報じず、当り障りのないドキュメンタリーや通常番組を流し続けたトルコ国内の報道機関に対する非難の声を紹介し、問題点を指摘した。

 批判を受けた大手テレビ局の一つであるNTVは、4日、テレビ局オーナーの言葉として、「視聴者は(我々に)裏切られたと感じている。(批判は)おおむね妥当なものだ」と発表。デモを当初取り上げなかったことを事実上、謝罪した。

 同国では、報道機関が巨大コングロマリットの一端であることが多く、今回沈黙を守った報道機関の多くも、政府と密接な関係を持つ他部門との絡みから、声を上げることができなかったとの分析がなされている。中には、親企業のCEOに、エルドアン首相の娘婿が君臨する機関すらあったという。
 2009年には、汚職記事を取り上げた報道機関についてエルドアン首相が苦言を呈した後に、その親会社が巨額の税法上の罰金を課される事態も起こっている。
 こうした報道機関のあり方や、政府の直接・間接的な報道規制は近年、国内外の批判の的となってきたと同紙は伝えている。「報道の自由がなければ、真の民主主義などありえない」との報道機関内部の声も報じられた。

【海外の反応】
 こうした騒動の渦中にある祖国を後にしたエルドアン首相も、問題からは逃れられていない模様だと、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は伝えている。
 トルコにとって最大の貿易相手国であるチュニジアで会議に臨んだ際にも、デモに対する抗議が用意されていた模様だ。
 さらに、内戦状態にある隣国シリアからの難民流入問題への対応において、同首相が頼りにしているアメリカやNATOからも、懸念の声が相次いでいる。特にアメリカは、ケリー国務長官が「重大な懸念」を表明したうえ、警察官の権力の行使についての調査を要求している。
 これに対し、ダヴトオール外相は、抗議デモこそ「トルコが二流の民主国家ではない」証だと切り返し、政府の対応の正当性を訴えたという。

【首相の帰国を待つ人々】
 タクシム広場に集う人々の波は途切れる気配がないと、海外各紙は伝えている。一種お祭り騒ぎの様相すら呈し、首相がデモ隊を評した「暴徒(looter)」と書かれたTシャツを着て、反政府、反エルドアンの歌を歌い、気炎を上げているという。

 同首相の「磐石の支持基盤」を有するとの矜持には嘘はなく、実際、今後の政治生命が直ちに危ぶまれるとの見通しは薄いとされる。
 しかし、広場に集い、今や遅しと首相の帰国を待つ人々に対峙したとき、退かざればさらなる反発は避けられず、退けば、支持基盤に亀裂が生じかねない。

 世界中から注視される中、首相の今後の舵取りの難しさを強く示唆する報道となった。

Text by NewSphere 編集部