国連、シリア内戦の激化に警鐘 各国への影響は?

 4日、スイスのジュネーブで開催中の国連人権理事会第23回会議で、内戦状態にあるシリア情勢の調査にあたっている独立国際調査委員会は、ここ数週間、戦闘が激化の一途をたどり、化学兵器や無差別な大量破壊兵器が使用されているとする報告書を発表した。

 報告書は初めて、政府軍によるサーモバリック爆弾の使用に触れている。これは、建物など閉鎖的な空間に撃ち込むと、まずは猛烈な熱と爆風で被弾者を直撃し、次に、その場の酸素を使い果たすことで、空間内の人間をほぼ全滅させるという強力かつ無差別的な兵器だ。
 パウロ・ピネイロ委員長は「良心に衝撃を与えるような犯罪が、ここでは日常と化している。人道こそ、この戦争の犠牲となったものだ」と発言。これまでに8万人が命を落としたとされる、シリアのあまりにも酷い戦況を憂いたという。

 メンバーによれば、今回の報告書では、「戦争犯罪や人道に背く犯罪、人権の蹂躙が、相次いでいる」とされ、1月半ばから5月半ばまでに起きた、「大量殺戮」と呼びうる17の事件が挙げられた模様だ。

【諸外国の反応は】
〈政府軍攻撃の急先鋒に立つフランス〉 
 フランスは、かねてより、事態の打開のためには、反政府軍に武器供与をすべきとする立場に立ち、欧州会議でも、他国への説得にあたってきた。フィナンシャル・タイムズ紙によると、そのフランスは4日、シリア政府が神経ガス「サリン」を使用したことに「疑いない」との見解を示したという。

 ファビアス外相が明らかにしたところでは、サンプルは、反政府軍に同行取材を行っていたル・モンド紙の記者によって提供されたもの。ダマスカス近郊と、北部のサラキブで、政府軍の攻撃を受けた際に、犠牲者の遺体から採取したものだという。
 さらに同氏は、フランスの権威が、記者の証言に基づいてその地点を調査し、破壊的な攻撃が加えられたことを確認したと述べた。

 同氏は、特にサラケブのケースでは、「アサド大統領に忠誠を誓う兵士によって発射されたことは間違いない」と語気を強め、今や「レッド・ライン(越えてはならない一線)が越えられたのは明らかだ」と発言。かねてより、「化学兵器の使用がレッド・ラインだ」としてきたオバマ政権に含みを持たせたと伝えられる。
 同氏は、6月にジュネーブで開催予定の和平会談への準備を進めつつも、「ガスの保管場所を狙う軍事行動を含めたあらゆる選択肢を検討中だ」との強硬姿勢を明らかにしたという。

〈あくまで慎重なアメリカ〉
 このファビアス外相の発言に対し、ホワイトハウスのカーニー報道官は火曜、化学兵器の使用者や使用された量を特定するには未だ証拠が足りない、との慎重姿勢を明らかにした。
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、アメリカは現在、シリア政権側が化学兵器を使ったという、明白な証拠がない限りは、いかなる行動をも取るべきではないとの見解だという。

〈政府軍への武器供給をやめないロシア〉
 一方、ロシアのプーチン大統領は、シリア政府に対して高性能地対空ミサイルを供給したことについて、「あくまで、数年前の契約に基づく、国際法上明らかに合法的な「契約の行使」であると表明。ロシアの武器供与の正当性を強調し、継続の意志を明らかにしたという。

【国連の見通し】
 国連の報告書は、「シリア内戦での化学兵器の使用を示す合理的な証拠がある」とはしているが、使用者を政府軍には限っていない。
 独立委員会のメンバーの1人は先月、TVで「反政府軍が化学兵器を使用している」と述べた経緯もある。なお残りのメンバーはこれに与せず、どちらが、どの程度使用したのかは不明との立場を取っている。
 
 ピネイロ委員長は、「政府軍と反政府軍の(化学兵器などの使用についての)違いは量的なものにすぎない。質的には同じだ」と指摘。「武器の供与が、膠着した現状を打破するとの発想は幻想に過ぎない」と述べ、西側諸国、ロシア、中東諸国による武力介入は、事態を悪化させるに過ぎないことを示唆。平和的な協議の道を模索するべきだと訴えたという。

Text by NewSphere 編集部