パキスタンでシャリフ元首相返り咲き 各紙が分析する課題と期待とは?
11日のパキスタン国民議会選挙で、シャリフ元首相率いる最大野党「イスラム教徒連盟シャリフ党」(PML-N)が勝利を確実にした。1947年の独立以来初めて、平和的な選挙による政権交代が実現することになる。
前政権ザルダリ氏のパキスタン人民党(PPP)は、歴史的にPML-Nのライバルとして政権を争ってきた。しかし、過去5年間の汚職や経済の停滞に対する人々の不満が足かせとなり、今回の獲得議席はわずか32にとどまったという。
一方、クリケットの元スター選手、イムラン・カーン氏が率いるパキスタン正義運動(PTI)は、「パキスタンの政治をひっくり返し、汚職を一掃する津波を起こす」との掛け声で注目を集めたが、結果的には31議席とふるわなかった。
【過去最高の投票率】
ニューヨーク・タイムズ紙は、同国の選挙につきものの、武装勢力による暴力という負の側面を紹介した。カラチでは爆弾テロ4件が続発し、14人が死亡したほか、北西部バルチスタン州では、2件の爆発テロが発生し、11人が死亡したという。
さらに、お決まりの「不正疑惑」も、取り沙汰されているようだ。PTIのカーン氏は、大掛かりな不正があったとして、選挙のやり直しを求めている模様。選挙管理委員はこれらの訴えを退けている。
過去最高の60%の投票率を記録した上に、女性の投票に否定的な国家的な土壌にもかかわらず、女性が投票を待つ列に並ぶ姿が散見されたことも伝えられ、選挙による「変化」を望む人々の熱意が浮き彫りになったといえる。
【シャリフ政権の多難な前途】
ただし、こうして「民意」を手にしたシャリフ氏とPML-Nの前途は多難だという。
まず、国内には、「軍と司法」そして、「パキスタン・タリバ-ン運動(TTP)」の問題が控えている。パキスタンの「軍」と「司法」は、民主主義のなかにあっても、独自の強大な権力を持つことで知られている。シャリフ氏はそもそも、その「軍」との対立によってクーデターを招き、失脚、国外追放に追い込まれた過去を持つだけに、今後の関係が注目されるという。これについて、同氏は「何の問題もない」と円滑な関係の維持が可能との見通しを述べているようだ。
また、TTPとの関係については、同氏は軍事力による制圧ではなく、交渉と話し合いによる穏健な関係づくりを標榜している。ただし、TTPはそもそもイスラム法による国家の運営を目指しており、現在のパキスタン国家とはまったく相容れない組織である。そのため、専門家の間では「不可能な目標」との見方が強いようだ。なお軍にはTTPとの戦いで命を落とした者も多く、確執も強いと言われる。
今回の選挙にあたり、シャリフ氏がTTPへの言及を避けてきたことから、TTPが攻勢を強めるのではないかとの懸念もあるようだ。
〈外交問題-アメリカ、インド、アフガニスタンとの関係〉
TTPとの関係とともに注目されるのが、アメリカ、アフガニスタンとの関係だ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、今回の結果を受けて、シャリフ氏は自らが政権を執った期間は、アメリカとの関係がもっと良好だったと胸を張り、同国との関係の強化を目指す考えを明らかにしたという。
しかし同氏は、アメリカの無人機によるTTPへの攻撃を「内政干渉」と強く非難。加えて、「(アメリカの干渉を許さずに)核実験を行った唯一の政権」だとアピールしているため、今後の対米姿勢については未知数と見る専門家もいるようだ。経済の低迷から、アメリカの支援を引き出す必要がある同氏としては、難しい舵取りが求められる。
さらに、インド、アフガニスタンとの関係についても、TTPやアメリカとの関係次第の危うさが指摘されている。
【シャリフ元首相は変わったか?】
一方、フィナンシャル・タイムズ紙は、「パンジャブの獅子」とも称されるシャリフ元首相の激しい気性に注目。14年前の追放当時、国民の間にもほとんど惜しむ声が聞かれなかったことを紹介した。
識者の間でも、評価は二分されている。軍や司法との良好な関係を築く困難を指摘する声もあれば、この14年間で成熟し、パキスタンが現在の困難な情勢を切り抜ける牽引役を担うことができるとする意見もあるようだ。
経済、内政問題、外交問題・・・いずれにおいても、一筋縄ではいかない矛盾が渦巻くパキスタン情勢。シャリフ元首相の真価が、これから問われることになる。