アメリカ、初めてシリアの化学兵器使用を認める方向へ 次なる一手は?

 25日、米政府の各情報機関は、シリアのアサド政権が内戦でサリンガスを含む化学兵器を使用しているとされる問題について、強い可能性を認めた。「確信の度合いはさまざま」と慎重な姿勢は崩していないが、従来の「疑惑がある」との見解からは一歩進んだといえる。

 この情報は、ホワイトハウスの議会担当スタッフのミゲル・ロドリゲス氏の議会宛て書簡の中で明かされたもの。そもそもは、民主党のカール・レビン上院議員や上院軍事委員会のジョン・マケイン委員長が、「アサド政権及びその支援者による化学兵器使用の有無」についてホワイトハウスに送った質問状に応えるものだが、「当局による新たな情報獲得の事実」から「返信を私文書扱いにしないのが適当」として、「議会宛」に公開されたものだという。

【問われる「発言への責任」】
 シリアでの「化学兵器の使用を認める」ことは、アメリカにとって、厳しい岐路に立たされることを意味する。オバマ大統領はシリアの現政権に対し「化学兵器、生物兵器の使用」を「レッドライン」(越えてはならない一線)とし、牽制してきた。昨年8月には、それらの非通常兵器の使用を検知した場合「重大な結果になる」と述べ、アメリカの直接軍事介入の可能性を強く顕示した経緯がある。

 これに対し、最近になって、イギリス、フランス、イスラエルなどの最も近い関係にある同盟国から続々と、シリア政府軍による化学兵器使用を示唆する証拠が呈示され、「アメリカの見解と立場」を求められていた。

 イギリスは数週間前に、潘基文国連総長とアメリカに、アレッポ、ダマスカス近郊、ホムスなどへの化学兵器による攻撃の証拠を呈示する書簡を送ったとしている。ニューヨーク・タイムズ紙が入手したコピーによれば、何十人もの犠牲者が、息切れ、痙攣、瞳孔収縮など、化学兵器への暴露を強くうかがわせる症状によって治療を受けており、これらの患者と密接に触れ合った医師も、目のかゆみや疲労を訴えているという。
 イスラエルも今週、シリア政府軍の化学兵器の使用を断定した。

 こうした動きを受け、シリア反体制派の幹部は電話取材に応え、「現在進行している民間人の大量殺戮に終止符をうつために、介入が今すぐ必要だ」と訴えたという。
 さらに米国内からも、マケイン氏が、「大統領は自らの発言に責任を負うべきだ」と述べたほか、民主党上院議員、ダイアン・ファインスタイン諜報委員会議長も、「レッドラインが超えられたのは明らかで、大規模な使用を防ぐための措置を取ることが必要だ」と発言しているという。

【オバマ政権の慎重姿勢】
 しかし、オバマ政権は今なお慎重な姿勢を崩してはいない。オバマ大統領には、中東地域における12年に渡る戦争に終止符を打つことを公約として、2度の選挙戦を勝ち抜いた経緯がある。さらに、「大量化学兵器」の存在を大義として戦争に踏み切ったイラク戦争で、後にその大義そのものが揺らいだ過去の教訓からも、「(化学兵器の)使用が確定したとしても、自動的に戦争開始の合図となるわけではない」との立場だ。ヘーゲル国防長官は、中東外遊中に、見解の転換を初めて認めつつ、「未だ証拠を確認している最中」だと述べたという。

 アメリカ、国連、イギリスが「シリアにおける化学兵器の使用」を支持する証拠としているのは、「シリアで採取された土壌と、犠牲者の細胞」だという。しかし、アメリカはその規模と、こうした証拠が「手元に届くまでの経緯」に疑問を呈している。
 つまり、まず、シリア政府が限定的な化学兵器の使用で、欧米諸国の対応を「テスト」しているという説がある。
 次に、証拠の土壌や細胞が「いつ」「誰によって」「どのように」、化学物質に汚染されたものであるかが不明である。実際、シリア政府筋は、化学兵器や大量破壊兵器の備蓄やその使用を否定しており、反体制派こそがその使用者だと非難しているという。
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、反体制派が、欧米諸国を内戦に引き入れ自陣につけたいがために、策を弄している可能性も指摘している。

【オバマ大統領の選択肢】
 オバマ大統領は決断を迫られている。政府高官筋は、「すべての可能性に対し、準備は整っている」と述べている。その「選択肢」には以下のようなものがある。

1.直接軍事介入 現状では民意も含み、誰にとっても望ましくない行為であるとの見解が強い。実行される可能性は低い。
2.国連を経由での、調査団受け入れ要求。 これは、すでに行われており、今後、その強度を増して実行していく見通しが強い。
3.NATOによる介入 NATO には、リビアで空爆を実施した「実績」があるが、シリア内戦については一貫して、介入を忌避する立場を取り続けている。
4.反体制勢力への武器供与 マケイン議員は、これを強く勧める立場。しかし、フィナンシャル・タイムズ紙によれば、デンプシー陸軍参謀総長は、「過激派に渡る可能性があるならば武器供与には反対する」と述べているという。

 迫られる決断に、苦悩を深めるオバマ政権。国際社会の今後の対応が注目される。

Text by NewSphere 編集部