EU、ミャンマー制裁解除へ 人権問題より経済か?
欧州連合(EU)はミャンマーの民主化が進んでいることを評価して、武器禁輸措置以外の制裁を正式に解除すると発表した。制裁は昨年4月に1年間の期限付きで一時停止されており、民主化に向けて継続的に前進していけるかが検証されていた。
海外各紙は制裁解除に対する賛否両論の意見をまとめている。
【欧米ともに制裁緩和の方向へ】
2011年の民政移管以降、ミャンマー政府は、政治犯の釈放や報道の自由化、少数民族との共存に向けた政策などを実施している。これをEUは評価し、今後も民主化が進むことを前提に今回の決断に至ったとウォール・ストリート・ジャーナル紙は報じている。
昨年から現地のビジネスチャンスを検証してきた欧州の企業は、制裁解除を歓迎しており、天然資源の豊富な新市場に改めて道が開かれることとなった。ただし、インフラ設備や政治・法律の整備など不確定要素が残るため、企業は慎重な姿勢をみせており、目立った動きはまだないようだと同紙は指摘している。
また、欧州同様に制裁措置をとってきた米国でも企業らがその解除を求めているとウォール・ストリート・ジャーナル紙は報じている。米国もこの1年間で投資規制や輸入禁止などを徐々に緩和してきたが、引き続き過去に武器・麻薬取引などを行なっていた個人や企業を「Specially Designated Nationals」としてブラックリスト化しており、取引を禁止している。
【虐待される少数民族に光は当たるか?】
欧米の制裁解除によってミャンマーの経済的再建が期待される一方で、同国では人道的な問題が根深く残っていると各紙は報じている。
EUの決断に対しても、民族浄化の現実を無視しているとの批判の声が人権団体から浴びせられている。人口のほとんどが仏教徒であるミャンマーでは、4%を占めるイスラム教少数民族が「ベンガルからの侵入者」とされ、両者間の衝突が激化しているようだ。最近では、イスラム教徒が人口の25%を占めるラカイン州で、過激派仏教徒がイスラム教徒ロヒンギャ民族の大量虐殺を行なっていると英テレグラフ紙は取り上げている。国際的な報道でもロヒンギャの人々が虐待される様子が取り上げられたばかりだという。
ヒューマン・ライツ・ウォッチなどの人権団体は、ミャンマー政府が民族問題に適切に対処していないばかりか、民族浄化に加担していると指摘する報告書を発表している。
ただ、国際社会に民主化をアピールしたい政府は、1948年の独立以前からミャンマーに住んでいることが証明できるロヒンギャに対して市民権を認める動きを見せているとフィナンシャル・タイムズ紙は報じている。この場合、7−8割の人々が該当するが、実際にはそれを証明する書類を所持していないのが現実だ。
人権問題が浮き彫りとなる事件が続く中、暴動で住居を追われたロヒンギャ難民が暮らすキャンプでは5月から始まる雨季で洪水やそれに伴う被害が予測されている。