ケリー米国務長官、イスラエルとパレスチナをシャトル外交 その効果は?
中東外遊中だったアメリカのケリー国務長官は、7日~8日にかけて、パレスチナ自治政府のアッバス大統領、同ファイヤード首相、イスラエルのネタ二ヤフ首相、同ペレス大統領と相次いで会談を行った。
報道陣への会見では、こうしたシャトル外交は、「不信という問題を解決するステップに着手するため」と述べた。
その鍵は「パレスチナの経済発展」にあるとし、今回の外遊が、アメリカによる中東外交介入の新局面であることを強く印象づけたという。
海外各紙は、アメリカが、過去2年以上停滞し冷え込んだイスラエル・パレスチナ関係の改善に、新たな切り口から本腰を入れようとしているとみている。各紙はそれぞれの観点から、各国の真意と今後の中東外交の行方を探った。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「アメリカ」に注目。オバマ政権が、イスラエルとパレスチナの直接和平交渉の再開を期して、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区における経済戦略を策定していると報じた。
ケリー国務長官は、米輸出入銀行や海外民間投資公社(OPIC)、国際開発局(USAID)、それに米国の民間企業の参加について言及。アメリカが、政治的な方向性からではなく、パレスチナの経済状況を改善することによる雪解けを期待していることを示唆している。
ただしケリー長官は、イスラエル・パレスチナ双方への具体的な期待にまでは踏み込まず、パレスチナ人の生活改善と、和平プロセスへの広範なアラブ諸国の支援が、重要な基盤になると強調するにとどめたという。
ニューヨーク・タイムズ紙は、「イスラエル」に注目した。9日、イスラエル政府筋が、「イスラエルには、パレスチナを会談のテーブルに招くために、信頼構築の手段を呈示する可能性がある」と表明したと報じた。なおパレスチナは、ネタ二エフ大統領に対して強い不信感を持ち、1967年の境界線への保証がないかぎりは会談参加をよしとしていない。
これには、ほとんどのユダヤ人入植地を含むパレスチナ西岸のからの撤退や、現在、パレスチナの代理として行っている徴税の停止をも含む可能性があるという。
イスラエルは昨年末、パレスチナが国連からオブザーバー国家として承認されたことを受け、代理徴税金の送金を凍結しており、パレスチナ自治区内の経済悪化の原因となっている。
これに加え、パレスチナがかねてより求めている、イスラエル国内に収監されているパレスチナ囚人解放の行方も注目されている模様だ。
一方フィナンシャル・タイムズ紙は、「パレスチナ」の視点を報じた。パレスチナの高官が「私的な外交上の会談である」ことを理由に匿名で語ったところによれば、パレスチナは先月すでに、オバマ大統領に、未来のパレスチナ国家のために重要ないくつかの経済計画の詳細を伝えたのだという。
呈示された計画は主に、「C地区」と呼ばれる西岸の約60%に関するもので、1990年代のオスロ合意に基づいて、イスラエルによる支配が続く同地区の、死海北岸沿いの観光開発などが含まれているという。
今回のケリー国務長官の談が、これに応じたものである可能性もあるが、その実現にはイスラエルとの調整が必須。
パレスチナの通信社は、パレスチナが交渉のテーブルにつけば、C地区内での建設を可能にするなど、パレスチナ自治区に一部の権利が移譲されるとケリー国務長官が述べたと伝えている。長らくパレスチナの成長を阻んできた、と国内外の識者が口を揃える、「足かせ」が外れる楽観的な可能性も示唆されている。
また同紙は、パレスチナ側のケリー国務長官への信頼感と、イスラエルのペレス大統領への期待感を示唆している。94年にノーベル賞を受賞したペレス大統領は、ネタ二エフ首相に比べて実権に乏しいとはいえ、海千山千の政治家でパレスチナ指導部と独自のパイプを有しており、その交渉力に期待が寄せられているようだ。
アメリカ、パレスチナ、イスラエルとも、「素早く」「交渉を進める」必要性を痛感している模様。各国が譲歩と権限の境界線を模索するなか、問題解決への「着手」が望まれている。