南米初の新法王 選出の背景と課題とは?

 前法王ベネディクト16世の生前退位を受け、115名の枢機卿から次期法王を決める「コンクラーベ」が開かれた。2日目となる13日午後7時ごろ、サンピエトロ広場を埋め尽くす信者たちの目の前で、システィーナ礼拝堂の煙突から、新法王決定を告げる「白い」煙が上がった。
 その1時間余り後、法王庁のバルコニーに、枢機卿団代表のジャン・ルイ・トーラン枢機卿が進み出、伝統にのっとって、「ハペムス・パパス(我らは法王を得た)」とラテン語で告げた。フィナンシャル・タイムズ紙の報によれば、その後、新法王の俗姓と「フランチェスコ1世」という法王名が紹介されると、予想外の人選に観衆は一瞬静まったという。しかし、76歳のアルゼンチン人で、ブエノスアイレス大司教のホルヘ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿が、自身も驚いたような表情を浮かべ、伝統的な白い法衣姿で現れると、観衆は大きな歓声で新法王を迎えたという。

【選出直後の模様】
 イタリア移民を父に持つフランチェスコ1世は、出自にふさわしく、かすかにスペイン語訛りのイタリア語で、「コンクラーベは(法王を兼任する)ローマ司教を選ぶ場なのに、我が同胞の枢機卿たちは世界の果て(アルゼンチン)まで探しに行ってしまったようです」とユーモア混じりに演説し、観衆の笑いを誘った。前法王への祈りを捧げ、友愛と愛と祈りに満ちた前途と、互いと世界のための祈りを呼びかけ、最後には、降りつのる雨にずぶ濡れになりながら、身動きもならないほど混んだ広場で新法王を待ち続けた民衆に、「おやすみなさい。ゆっくり休んでください」と平易な慈愛の言葉を投げかけた。その様子は、就任直後に下手なイタリア語を詫びながら信者に語りかけたヨハネ・パウロ2世を彷彿とさせたという。

 オバマ大統領は、世界中の他の指導者に先駆け、「貧しく、もっとも弱き者の擁護者であり」「初の、アメリカ大陸出身の法王である」フランチェスコ1世の前途を祝すと共に、米大陸の活力を示すものだという声明を発表した。

【新法王の課題】
 簡素、質素な生活を好み、アルゼンチンのアパートで自ら料理をし、公的な交通手段で移動するのを旨としているというフランチェスコ1世は、その朴訥な人柄で民衆の心を掴んだに思われる。
 しかし、新法王が直面する課題は大きく、重い。ここ数年で噴出した、聖職者による未成年者への性的虐待問題や内部文書流出事件などのスキャンダルへの対応や、権力闘争に揺れる教皇庁の改革、イスラム教や中国との関係改善、資金洗浄対策への強化など、枚挙に暇がないと伝えられる。
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、バチカンの中央での経歴を持たない法王が、手腕を振るえるかどうかがカギだと報じた。

 しかしその点については、しがらみがないからこそ思い切った改革に打って出られるのでは、という希望的な見解も少なくないようだ。新法王に求められているのは、内部抗争に明け暮れるイタリア人の「巣窟」としばしば名指しされる教皇庁で、効率的な中央集権性を残しつつ、地方分権を進めて、他地域に開かれた教会にすることだと、ニューヨーク・タイムズ紙は分析した。「馴れ合いの慣習を一刀両断にできる「思い切り」があれば難しいことではない」と識者は指摘し、同時に、「カトリック協会がアラム語の時代に、(対立主言語の)ギリシア語を学び、ラテン語の時代にケルト語を学んできたのだとしたら、今、「中国語」を学ばずして明日はない」と厳しい注文を突きつけたという。

【新法王選出の背景】
 5回目の投票での法王決定は、歴史的に見れば非常に早いとされる。通常、前任者の死という不慮の事態で幕開けするのに比べ、生前退位の今回は、枢機卿団が余裕をもって人選に臨めたことが一因とされる。

 礼拝だけの場所ではなく外向きの活動を行う教会を目指す進歩性を持ちつつ、同性愛や妊娠中絶や安楽死といった社会問題については保守的で、典型的な教会の見解を守るバランス感覚。父方の血筋からイタリアに親和性を持ち、今や欧州をはるかに超える信者を抱える米大陸の出身であり、もっぱら「学者タイプ」と評された前法王に比べ、実際的で親しみやすいと伝えられる人柄。そうした人物像が、改革の手腕を期待される新法王にふさわしかった—-意外な抜擢の背景には、そうした事情が垣間見えるという。

Text by NewSphere 編集部