イラン・パキスタン「平和のパイプライン」 4つの課題とは
11日、イランからパキスタンへ天然ガスを輸出する「平和のパイプライン」の起工式が行われ、パキスタンのザルダリ大統領とイランのアフマディネジャド大統領が出席した。パイプラインは元々インド向けに計画されたもので、建設は遅れてはいるものの、すでにイラン領内で約900kmが完成している。今後イラン領内をあと約320km、およびパキスタン領内を約780km延伸したうえで、2014年末の稼働を目指している。
パキスタンは慢性的なエネルギー不足から充分な発電ができず、大規模停電が常態化しているため、この計画を重視している。しかし計画にはいくつもの不安がある。
1.建設費用
ワシントン・ポスト紙はあと15億ドル必要と指摘し、5億ドルをイランからの融資、5億ドルを中国からの融資、あと5億ドルを料金値上げで賄う計画のようだと伝えている。しかし同紙は、パキスタンの契約者が値上げ料金をまともに支払うかどうか疑問視している。なおフィナンシャル・タイムズ紙は、パキスタンはガス受け取り量に関わらず基本料金を支払う契約であることを指摘している。
2.国内の治安
パイプラインのルートは治安の悪い地域を含む。BBCは、「自治権のために戦う分離独立反乱軍」の襲撃を懸念している。
3.イランに対する国際的な制裁
今回の計画はイランへの国際的経済制裁を乱す。実際、米国はこの計画が「イラン制裁法に基づいて重大な懸念を提起する」と警告し、別ルートを勧めている。フィナンシャル・タイムズ紙は、今後アフガニスタン撤退により米国にとってパキスタンの利用価値が薄れれば、圧力はさらに増加するとみている。
これに対しアフマディネジャド大統領は平和目的であることを訴え、「イラン、パキスタン、その他の国の進歩に反対している人がたくさんいます。イランに圧力をかけるために、その進歩を妨害するために、彼らは言い訳を発見しました。核問題と呼ばれるものです」などと反発した。また、アフガニスタンも保安上の懸念がある点には変わりない。
4.パキスタン国内情勢
最後に、ザルダリ政権の任期は今週末までであり、パキスタンはこれから選挙に突入することだ。各紙によれば、このタイミングで宣伝されたこの計画も、選挙向けのアピールではないかとの疑念が根強いという。与党・パキスタン人民党が敗北した場合、計画の先行きも不透明となる。
ワシントン・ポスト紙によれば主な対立候補はパキスタン・イスラム教徒連盟で、サウジアラビアに亡命中のシャリフ元首相が率いている。なおサウジアラビアはイランを利する取引には断固反対すると同紙はみている。