オバマ大統領、「予算折衝専門家」を財務長官に指名するねらいとは
オバマ大統領は9日、新財務長官にジャック・ルー大統領補佐官(57歳)を指名する予定であることが分かった。ルー氏の政治経歴は長く、1970年代から80年代にかけては、ディップ・オニール下院議長の顧問を務め、クリントン政権時の1998年には、行政管理予算局長に就任し、4年間財政黒字を計上したという実績をもつ。なお、ルー氏が財務長官に就任するためには、上院において指名承認のための公聴会に出席し、三分の二以上の賛成を得る必要がある。
海外各紙は、オバマ大統領によるルー氏起用の狙いについてそれぞれの視点から詳報している。
ニューヨーク・タイムズ紙は、ルー氏の経験不足に触れている。それによると、ルー氏は、現財務長官のガイトナー氏に比較して、国際経済および金融市場における経験がかなり浅いという。ウォール・ストリート・ジャーナル紙も同様に、ルー氏が金融市場のエキスパートというよりも予算折衝(対議会)の専門家であると報じている。同紙は、ルー氏はシティグループの最高執行責任者に就いた経歴をもつものの、投資業務には携わっていなかったと報じている。フィナンシャル・タイムズ紙は、市場の経験を重視しない人選に失望の声が上がることも考えられるとしている。
またフィナンシャル・タイムズ紙は、ルー氏と共和党の対立をクローズアップしている。それによると、ルー氏に対する共和党の評価は、有能ではあるが「イデオロギー的」頑迷さをもつというものだ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙も、長年民主党リベラルの象徴としての政治家たちのために働いてきたルー氏の経歴を取り上げている。ただ、ニューヨーク・タイムズ紙によると、共和党がルー氏の指名に異議を唱えるような構えは見せていないという。
ニューヨーク・タイムズ紙は、今回の指名予想からオバマ政権の変化を読み取っている。すなわち、世界不況と財政危機という問題から、予算を巡る共和党との攻防に重点が移されたのだという。同紙によると、この背景には、現在政権が、「財政の崖」をかろうじて回避したものの、連邦債務の法定上限を引き上げない限り、債務不履行となる危機があるという。さらに、債務上限の引き上げに応じるには、「メディケア(老齢者および障害者のための医療保険制度)を含む給付金制度も一律に財政支出の削減対象としなければならない」と共和党幹部が発言していることも懸念点であるという。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、ルー氏は2011年の共和党との財政支出削減議論において、メディケイド(低所得者のための医療保証制度)の削減に端から応じなかった経緯も紹介している。