アメリカが無人機でパキスタン武装勢力を攻撃した理由とは?

アメリカが無人機でパキスタン武装勢力を攻撃した理由とは? パキスタン北西部の部族地域にある南ワジリスタン地区で2日、米国の無人機攻撃によって武装勢力の有力指導者モルビ・ナジル司令官らが死亡した。詳細は定かではないが、少なくとも10名は死亡した模様。ナジル氏は統治していた南ワジリスタン地区でアルカイダを保護していた他、アフガニスタンのタリバンと連携し同国における米軍攻撃に関わっていたため、米国の無人機攻撃の主要な標的となっていた。一方で、パキスタン政府とは平和協定を結んでおり、ポリオワクチン接種の妨害以外は目立った反政府運動のない「良いタリバン」とも呼ばれていたという。
 海外各紙は同氏の死亡や矛盾するパキスタン政府の対米姿勢から混乱が生じる可能性について注目している。

【有力者の死亡による混乱はいかに】
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、ナジル氏はアフガニスタンとの国境にある南ワジリスタン地区を統治しており、ウズベク人系イスラム原理主義組織の侵略を阻止するなど地域の安全に貢献してきた。最近では政府との平和協定により同地域における長年の無秩序を正すべく努力が行われていたという。数百人の難民を呼び戻し、学校や道路などのインフラ新設が予定されていたようだ。しかし、同氏の死亡によって混乱が生じれば激しい反乱のきっかけになることが予測されている。ニューヨーク・タイムズ紙は、指導者なきグループがイスラム過激派「パキスタン・タリバーン運動(TTP)」と手を組むなどの最悪なシナリオも考えられると指摘している。

【矛盾するパキスタン政府の対米姿勢】
 フィナンシャル・タイムズ紙によると、米無人機攻撃に対してはパキスタン政府・反政府勢力それぞれが罪のない市民までも犠牲にしているとして非難している。米国は武装グループを標的にしているものの、昨年は約40回の攻撃により300名近くが死亡しており、その多くが民間人であったという。今回の攻撃に関してもパキスタン政府は公式報道で米国を非難している。しかし、政府にとって都合の良い一部の攻撃に関しては承認しているとも報じられている。ニューヨーク・タイムズ紙は、ナジル氏のように友好的な存在は紛争が続いているうちは政府にとって有利になるが、2014年の米軍撤退後も地方権力にしがみつき、その影響力が脅威となるとしている。現に同氏は、パキスタン政府と平和協定を結ぶ半面、政府軍を攻撃するアルカイダらをも保護しており、地域における勢力をより長く維持するために裏表のある戦略をとっていたとウォール・ストリート・ジャーナル紙は報じている。悩みの種でもあった同氏の所在地をパキスタン軍が米国に伝えたのではという疑いが広まれば、これまでは比較的平穏だった南ワジリスタン地区でも反政府攻撃が激化する可能性もあるという。

 2014年に国際治安支援部隊がアフガニスタンから撤退することを受け、パキスタンは米国との関係改善に前向きになっている。また、和平交渉を促進させるために年末にはアフガンタリバンの幹部メンバーを釈放したばかりだ。国内の混乱を悪化させずに国際社会での調和を図っていけるかが今後注目される。

Text by NewSphere 編集部