エジプト、新憲法案「賛成多数」は何を意味するのか?
15日、エジプトで、新憲法草案の賛否を問う1回目の国民投票が実施された。ムスリム同胞団による非公式の出口調査によれば、投票率は32%。賛成票が56.5%と僅差で反対票を上回った。反イスラム派勢力が多いとされる大都市圏で行われた今回の選挙で信任票が上回り、2回目の選挙がムスリム同胞団支持の多い地方都市で行われることから、新憲法案の承認はほぼ確実な情勢となった。
今回の結果をどう受け取るべきなのか。海外各紙は、イスラム派勢力、自由派勢力、第三者である識者やアナリスト、そして個人レベルの投票者のそれぞれの見地を中心に分析した。
イスラム系勢力は、今回の結果を「賛成多数で承認」と発表した。しかし一方で、「驚き」でもあったと報じたのはウォール・ストリート・ジャーナル紙。モルシ大統領は90%以上の賛成票を公然と予想し、ムスリム同胞団も選挙に先立つ反対派との衝突の際、「選挙が、国民の大統領支持を証明する」としてきた。ところが、蓋を開けてみれば、投票率は低く、しかも、差はわずかだった。この結果についてニューヨーク・タイムズ紙は、同胞団内にも、「投票率の低さ」は「支持派と反対派の極端な衝突」が原因とし、「不信任案の多さ」を「国民の、同胞団への怒り」と見る幹部がいることを紹介した。
一方、反対派勢力は、今回の選挙について、長すぎる待ち時間や、投票所の運営の種々の不正、信任を無理強いする不審者の存在などを指摘し、結果の無効を主張しているという。ニューヨーク・タイムズ紙によれば、なかには、今回の結果を「勝利」と分析する意見もあるという。「選挙になれば負けなし」というムスリム同胞団の方程式を危うくした今回の選挙は、自由派にとって、今後の選挙に期する原動力になりうるとした。
アナリストや識者は中立的視点から、「民主化移行期の混乱を嫌う国民」が信任を下支えするとしつつ、今後の成り行き次第の政情の不透明感を指摘した。また、僅差に迫った反対票を、草案のみならず、モルシ政権そのものへの不信任票であると分析。反対派についても、危機的状況の打開策として、「妥協」ではなく「妨害」を用いる間違った傾向を指摘し、双方が変わる必要性を強調した。
さらに、32%という投票率の低さを、国の柱たる憲法の正統性を危うくするものだとする意見がある。多くの国において、憲法に関する国民投票については、有効のために必要な投票率を定めており、今回の一部の起草委員すら、これを満たす必要性を指摘していたという。しかし、規定は盛り込まれず、反対派の「正統性なし」、「投票プロセスの不備による無効」という意見を、イスラム派勢力がくむ気配はない模様だ。
一方、フィナンシャル・タイムズ紙は、ムバラク政権崩壊後とは打って変わった今回の選挙の「沈鬱な」ムードを伝えつつ、草案の賛否によらず「まずは、意見を表明すべき」「正否はあとから論じられる」など冷静かつ真摯に選挙に臨んだ有権者の姿勢を伝えた。
なお、ウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、反対派勢力は大規模な抗議行動を呼びかけているという。エジプトの政情不安にはまだまだ終わりが見えないようだ。