ミャンマー鉱山抗議はなぜ弾圧されたのか?―民主化アピールと実利のジレンマ―
30日未明、ミャンマー北西部レッパダウン銅山の拡張プロジェクトに抗議する地元住民や仏教僧の群衆が、治安部隊の武力鎮圧を受け、約50人の負傷者が出る事態となった。ミャンマー政府は2日、野党指導者アウンサンスーチー議員を筆頭に、30人からなる調査委員会を発足させ、プロジェクト自体の妥当性評価までも含めて、年末までに調査結果を報告させることにした。
このプロジェクトは、ミャンマー軍部の保有するミャンマー・エコノミック・ホールディングス社と中国の国有兵器メーカー・北方工業公司(ノーリンコ)との合弁事業ワンバオ(万宝)が、10億ドル規模の鉱山拡張を計画したもので、26村の何万もの村民が土地を強制収用され立ち退かされ、多数の宗教建造物が破壊され、環境悪化が起こるとして、地元の村民や仏教界から反対されてきた。ニューヨーク・タイムズ紙によると、西側の支援団体による扇動の噂もあるようだ。
一方、昨年37億ドル規模のダム開発計画が抗議運動を受けて中止された経緯もあり、中国側は憤激して契約遵守を訴えている。中国は、「しょせんミャンマーの資源目当て」との観測に苦慮してきたという。
今回の武力鎮圧では火炎放射器などが使用されたとみられるが、ニューヨーク・タイムズ紙は、軍事政権時代には荒っぽい虐殺ばかりしてきた治安部隊が現代的な鎮圧作戦経験を欠いたために、当局の意図した以上の過剰な武力行使になった可能性(および救護班が用意されていないなど被害を拡大する不手際)を指摘した。またウォール・ストリート・ジャーナル紙は、地元警察長官が仏教高僧たちに謝罪したことを伝えた。
各紙は、このような弾圧が発生する一方で、迅速に調査委員会が立ちあげられたことについて、軍部から政権を受け継いだテインセイン大統領の文民政府が、民主化推進姿勢をアピールする必要と、外国投資を誘致する戦略との間で板挟みになっているものと論じている。
またウォール・ストリート・ジャーナル紙は、アウンサンスーチー議員の起用は公正な調査委員会としての信頼性を期待してのことである一方、同氏もまた、2015年大統領選への出馬を視野に入れているため、軍部を敵に回せない事情があるのではと指摘した。ミャンマー議会は4分の1が軍将校枠であり、スーチー氏の英国人との結婚(現在は死別)は違憲であるため憲法改正も必要で、さらに父親はミャンマー独立の英雄・アウンサン将軍である。スーチー氏は弾圧に抗議する群衆に忍耐を説き、軍部や中国含め鉱山側と村民との穏便な調停を望んでいるという。その調停が成功するかどうかが、現政権やアウンサンスーチー議員の評価に関わってきそうである。