山中教授らノーベル賞―iPS細胞、再生医療へ光―
8日、今年のノーベル医学・生理学賞が発表され、英国のケンブリッジ大学のサー・ジョン・B・ガードン教授と、京都大学の山中伸弥教授が受賞した。
ガードン教授は1962年、カエルの腸細胞を、体の各部位に分化していない状態の幹細胞(iPS細胞)に戻す実験に成功し、今日のクローン技術への道を開いた。山中教授は2006年、そのiPS細胞化が4つのタンパク質の注入だけで可能なことを実証した。
これらの成果により、臓器移植を必要とする患者自身の細胞からその臓器を作り出す再生医療や、遺伝病などの発生メカニズムの研究、新薬の治験などが、加速するものと見られる。
なお今年のノーベル賞発表は本件が最初で、今週から来週にかけて、他の部門の発表が予定されている。賞金は800万スウェーデンクローネ(約9600万円)で、資金不足のため今年から減額されている。
Financial Timesの報道姿勢―倫理的問題の回避に成功、安全面は?―
FTでは、山中教授の手法によりiPS細胞生成のために胚性幹細胞(卵)の実物そのものを用いる必要がなくなり、ヒトにおける医療であっても倫理的問題を回避できるとして、「ノーベル倫理学賞にも値する」との称賛の声を伝えた。
ただし安全面での確認はまだ取れておらず、引き続き研究が必要であるとした。
The New York Timesの報道姿勢―挫折者の復活―
NYTでは2人の経歴に紙幅を割き、高校時代の生物教師から酷評されたガードン教授と、外科医としてスタートするも「才能がないとわかった」という山中教授が“大化け”したと報じた。
ガードン博士の発見は、細胞の分化が一方通行だとした定説を覆した、としている。博士は、受賞を50年待たされたことについて「まだ生きているうちで幸運でした」と答えたという。また山中博士は、「陰で笑われるようなたぐいの実験」を画期的に断行したことで成果を挙げたとコメントしている。
The Wall Street Journalの報道姿勢―来年、実際の移植手術へ―
WSJでは、実際に研究成果を応用しての黄斑変性症患者への(患者自身の細胞由来の)網膜移植手術が来年、日本で試みられることも伝えている。
山中博士の手法改良は、すでに多くの研究室で受け入れられているとした。また80歳に近付きつつもなお忙しいガードン博士は、「まだ疑問に答えきっていないので」なおも地道に研究を続けるという。
<参考リンク>
iPS細胞は実用化されている、という話。
(薬作り職人のブログ)
京都大学教授の山中伸弥iPS細胞研究所長のノーベル生理学・医学賞に5年前の電話取材を思う
(木村正人)
iPS細胞の研究で山中伸弥教授がノーベル賞
(町村泰貴)