AIがあなたの仕事を「公平に」評価してくれる時代に 採用・人事でのAI活用に大きな期待

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 今年2月、経済産業省は日本型雇用システムの長時間労働や低い生産性を是正することを目的に、人工知能(AI)を企業の人材採用や育成に活用することを促す内容を、新産業構造ビジョンに盛り込んだ。AIによる就職支援は一部のベンチャー企業などにとどまるため、経産省としてはデータに基づいた人事制度の運用を広め、雇用改革を推進したい考えだ。

◆人事こそ必要との見方も
 AIというと科学技術の分野を思い浮かべる人が多いと思うが、膨大な文献を学習する能力、日々の情報を蓄積し知能を高めていくAIの機能を診断の手助けとして医師が使うことなども実用化されてきている。1人の医師が膨大な医療文献の習得と、疾病や薬剤に関する最新情報をアップデートするのはかなりの労力だ。AIの助手がいれば、疾病データの解析やそこから提示されるいくつかの解と自分の経験を照合することで、より的確で迅速な医療サービスを提供できるようになる。

 コールセンターに蓄積された質問内容や苦情を分析したり、クレジットカードの利用履歴を解析したりすることで不正利用を見破ることなどにもAIが活用されている。人間では処理しきれないような膨大な情報を蓄積し、数えきれないほどある分析パターンを高速に処理し、そこから解を導き出すのはAIならではの能力だ。

「膨大な情報」といえば、企業の人事情報も、学歴から入社後の成績、上司などの評価、さらに本人の適正や希望などを含めればやはり「膨大」になる。非正規雇用者の採用なども含めると、応募から書類選考、面談、試験実施と採点、そして最終評価までの行程はかなりの情報量と労力になる。人間が行うと、採用や昇降格のための評価もデータが多すぎで正当に分析できない上に、面接官や上長、人事担当者の主観が含まれることが避けられない。製品の開発も営業も人の能力次第であり、その結果で会社の業績が決まることを考えると、人事という重要な部分にAIなどによる科学的な根拠が求められるのは当然のことなのかもしれない。

◆評価の公平性や社員教育にも
 三菱商事では社員のデータベースをAIに学ばせ、採用テストによる得点とAIによるエントリーシートの評価の両方を加味して採用者を選考する取り組みを2016年から進めている(NIKKEI STYLE)。日本でもこのような取り組みが増えていくのは確実視できるだろう。

 フォーブス誌は、IBM Institute for Business Valueの調査結果から、企業の人事担当者400人弱のうちの半数がAIは人事業務に効果的と回答していることを紹介している。さらにチャットボット(人工知能を活用した対話機能)を活用することで、人事に関する質問の回答から、学習などにも使え、従業員の能力開発に役立つ上に、人事担当者の負担を減らすことにつながるとの見方も取り上げている。採用や評価のみならず、人材教育にもAIの活躍が見込めることになるわけだ。

 同誌では別の記事で、AIが人事業務で活用されることで、どのような良いことがあるのかを次の4つにまとめている。
 1.組織の停滞を打ち破る可能性を秘めており、AIに対する認識を変えつつある。
 2.面接時の態度や声なども判断材料にでき、より人間的な選考もできる。
 3.データを最大限活用することができる。
 4.偏見や思い込みの是正に役立つ。

◆ウエラブル端末との相性
 人事に関するあらゆる情報を提供する『Teck Weekly』では、ウエラブル端末とAIを使うことで従業員の満足度を向上させられる可能性について紹介している。イギリスでは睡眠不足による生産性のロスは年間400億ポンド(約5.8兆円)、米国では4,110億ドル(約45.8兆円)と推定されており、これを改善することで業務ロスの縮小に加え、健康面など従業員の福利厚生に役立てることもできるとしている。

 PwCの調査結果によると、雇用者は雇用主が従業員の健康管理を強く望んでおり、ウェアラブル端末の活用も容認できると述べている。ウェアラブル端末が収集するデータも加われば、健康管理に必要な情報のみならず、日頃の業務の行動もデータ化でき、成績や上長の評価との相関が取れ、業務改善につなげることも可能だろう。そのデータ量は膨大になり、AIのようなコンピュータの力が必須になる。真面目に働いているのに評価されていない人にとってAI導入は吉報となり、口八丁、権謀術数で出世してきた人には、その逆になるのかもしれない。

◆AIの能力・活用方法の適切な見極めが重要
 エン・ジャパンが『人工知能×ビッグデータが「人事」を変える』の著者である福原正大氏(Institution for a Global Society株式会社 CEO)にインタビューした記事によると、AIへの過剰でも過少でもない接し方が大切であるとしている。データはある基準を知らせるもので正解を伝えるものではなく、逆にデータの分析がなければ正しい判断もできない。最適な採用、正確な評価、実効性の高い教育の実施に、AIは機能を発揮することになると見ている。

 そのAIの効果的な活用方法を知るには、使う人間が経験値を積むことにあるとしている点も面白い。機械に知識を持たせ、それを使うことのできる能力が求められるというわけだ。

Text by 沢 葦夫