共謀罪:“テロが珍しい国”“もっとじっくり議論を” 内外の懸念を伝える海外紙
「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する法案が23日、衆議院本会議で可決された。安倍首相は6月18日までの今の国会会期中に成立させたい考えを強調している。ワシントンポストやニューヨーク・タイムズなど海外各紙は、安倍政権が衆参両院で3分の2以上の議席を持っていることから、法案は簡単に可決されるだろうと予測している。
◆日本でのテロは稀と指摘
テロ等準備罪の可決は、イギリスのマンチェスターで行われたアリアナ・グランデさんのコンサート会場で自爆テロが発生した数時間後だったこともあり、海外メディアではグランデさんの事件に言及しながら報じられた。
中には、日本ではテロ事件自体が稀であることを指摘する海外メディアも少なくない。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、「外国人による大掛かりなテロが日本で発生したことはない」として、国内組織によるテロが1990年代に1件あるのみと説明。ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は、「テロ事件が非常に珍しい国において、この法案が定義するテロがあまりにもあいまいな上、監視対象になり得る犯罪行為のリストも恣意的だと批判する人もいる」と指摘している。
このような中、日本政府が「テロ等準備罪」の成立を急いでいる理由として海外メディアは、①2020年東京オリンピックにおけるテロ対策、②国連の国際組織犯罪防止条約(TOC条約)に批准するため、と日本政府の意向を説明している。
◆世論は二分
世論については、NYTは都内で行われた抗議活動の写真を掲載して、「同法案に対する世論は二分しているが、4分の3以上の人はなぜ法律が必要なのか説明が不十分と考えている」と報じている(データのソースは不記載)。WSJとワシントンポストはともに、共同通信社が21日に発表した世論調査の結果として、説明不十分と答えた回答者が77%に上ると伝えている。
NYTは、「安倍氏が世論を押し切って立法を進めたのは今回が初めてではない」として、2015年には大規模な抗議活動のなか安全保障関連法が成立したと報じている。
ワシントンポストは、今回の法案と同時に、日本の戦争放棄を謳った憲法第9条の改正を安倍首相が意欲的に押し進めていると指摘。「安倍氏の祖父である岸信介元首相が実現できなかった『日本に足かせを付けた憲法の改正』を目指していると見られている」とし、前述の共同通信のデータを引用して、第9条改正は56%の人が支持していると伝えている。
◆海外人権組織が懸念
ワシントンポストは、アムネスティ・インターナショナルとグリーンピースが法案について、「民主主義の原則の中核である言論の自由を脅かす可能性がある」と指摘したことや、国連人権理事会から任命された特別報告者のジョセフ・ケナタッチ氏が、プライバシーの権利を侵害する可能性を懸念する書簡を安倍首相に送ったことに触れた。テロ等準備罪についてケナタッチ氏は採決を前に安倍首相に対し、「適用範囲が広範なため、プライバシーやその他の基本的な国民の自由に関する権利の行使に影響する可能性がある」と書簡を送付。プライバシーや言論の自由を保護する手段を盛り込むために、もっとじっくりと時間をかけて協議し合うよう提言していた。
タイムズ紙は、この書簡を受けて安倍政権がケナタッチ氏と共謀罪を巡って「言論戦」になっていると伝えている。菅官房長官はケナタッチ氏の書簡に抗議したことを明らかにしているが、ケナタッチ氏は菅氏の「怒りの言葉」をはねつけ、権利侵害的な監視から国民を保護するよう、法案の修正を要求している。
ケナタッチ氏は、「深刻な欠陥のある法律を日本政府がこんなに性急に押し通す正当な理由は全くない」として、「日本政府は少し手を止めて、じっくりと考え、もっといい方法があると気づくべき時だ。その上で、世界レベルの民主主義国らしく振舞うべきだ」と主張しているという。
タイムズ紙はまた、アムネスティ・インターナショナル日本の山口薫氏の話として、共謀罪のもとではアムネスティが組織犯罪集団と判断される可能性が高く、「もしこの法案が国会を通過したら、私たちの組織やメンバーが深刻な影響を受けることになる」と同氏の懸念を伝えている。
画像出典:首相官邸ホームページ