トランプ氏は2020年の大統領選で再選される可能性が高い

著:Musa al-Gharbiコロンビア大学, Paul F. Lazarsfeld Fellow in Sociology)

 多くのアメリカ人はトランプ大統領を好きではない

 トランプ大統領は2020年の選挙でも再選される可能性が高い。

 この2つが同時に成り立つのは、いったいどういうことか?答えはこうだ。

 人は現状に不満がある時でも、その状況が変わるのを拒む傾向がある。私の研究分野である認知科学と行動科学ではこれを「デフォルト効果」と呼んでいる。

 この特質を活用しているのがソフトウェアおよびエンターテインメント企業だ。消費者からできるだけ多くのデータを収集するためプログラムを強化し、またインターネット配信番組を「もう1話見たい」と思わせる手法を使って視聴者離れを防いでいる。企業が集めた情報がどのように使われるのか、また利用者の選択がコントロールされているのでは、という懸念が広がっているにもかかわらず、設定の変更を行っているユーザーは全体のわずか5%だ。

 デフォルト効果は、アメリカの政治をかたどるのにも大きな力を発揮している。

◆さらに4年
 フランクリン・D・ルーズベルト氏は、世界恐慌から第二次世界大戦までの間に4期連続でアメリカの大統領を務めた。未来の指導者が無期限に権力を保持、強化するのを防ぐために可決されたのが米国憲法修正第22条だ。それ以降、アメリカの公職者の任期は最大2期まで、と制限された。

 それから11名の大統領が生まれている。

 そのうち、再選の機会を得たのが、ハリー・トルーマン、ドワイト・アイゼンハワー、ジョン・F・ケネディ/リンドン・ジョンソン、リチャード・ニクソン、ロナルド・レーガン、ビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュ、そしてバラク・オバマの8政権だ。

 1期で退陣した3政権でさえも、在任期間の基準をよく明示している。

 もし1976年にフォード氏が勝利していたら、共和党が3期連続で政権を握っていたことになる。また、ジョージ・H・W・ブッシュ氏が1996年に再選されていたら、共和党政権が4期にわたって続いていたはずだ。

 1932年以来、政権を握った政党がそれを8年未満で手放した例は1度しかない。1976年から1980年まで続いた民主党のジミー・カーター政権だ。

 つまり、大きな問題となるのが、トランプ氏が今アメリカの政治のデフォルトになっているということだ。この視点からシンプルに考えると、彼は再選される可能性が高いことになる。

◆人気が過大評価されている
 トランプ氏の支持率は記録的に低かったにもかかわらず、わずかな不人気の差でヒラリー・クリントン氏を倒し、大統領の座を手に入れた。恐らく彼は必要となれば、同じ妙技をもう一度見せることもできるのだろう。

 トランプ氏を当選させた有権者は、今後も彼を支持し続けていく。彼は就任直後の100日間で、小口の寄付を受け、再選のための資金を数百万ドルも調達した。これはバラク・オバマ氏の2倍の金額だ。そして、彼はすでにそれを活用している。主要な州で彼の業績を謳い、政治的なライバルを批判する宣伝を行うためだ。

 トランプ氏を好きだという人も、信用しているという人もアメリカにはほとんどいない。にもかかわらず、世論調査を見ると、彼は今のところ国民の期待以上の功績をあげていると受け取られているようだ。実際、ABCニュースとワシントンポストの調査によると、トランプ氏の支持率は低迷しているとはいえ、もし4月下旬にも再度選挙が実施されたなら、彼は選挙人投票だけでなく一般投票でも勝利することになるという。

 この点をさらに明らかにするため、アメリカ議会再選のパターンを検証する。

 第二次世界大戦以降、下院議員の再選率は約80%、上院議員は73%となっている。2016年の選挙の場合、議会の支持率はわずか15%だったにもかかわらず、再選率は下院が97%、上院が98%と通常をはるかに超えていた。

 デフォルト効果がもたらす作用、今期空席の議席があること、そして州政府を共和党が支配している現状によって、共和党は主要な下院選挙区を手中に収めていると言える(編注:議会に空席がある場合、州知事が代わりの議員を指名できる)。2018年の下院選挙で民主党が過半数を超えることは非常に難しいだろう。上院はなおさらだ。

◆トランプ氏でなければ…誰?
 デフォルト効果により、最も重要になるのは国民が「現状についてどう感じるか」ではなく、「代替候補についてどう感じるか」ということだ。

 カーター氏の敗因は支持率の低さだけでなく、対抗馬がロナルド・レーガン氏だったこともある。「ギッパー」の愛称を持つレーガン氏は知名度や信頼度も高く、メディアにも精通していた。当時の政府は彼の政策を「ブードー(魔術的)経済学」などと嘲り、一笑に付した。しかしアメリカ国民はレーガン氏を明確なビジョンを持ち、人の心を打つリーダーであると受け止めた。その結果、彼は2期連続で圧倒的勝利を収めたのだ。

 トランプ政権の野党は、はるかに分が悪い。この十年間、民主党の支持者は減少していった。民主党員というのは、トランプ氏や共和党員と比べ、平均的なアメリカ人の「実態がわかっていない」と見なされてきた。しかし、民主党全国委員会(DNC)のキープレイヤーは依然として党基盤戦略の実質的な変革を嫌っている。それゆえ、民主党がどのように連携を拡大していくのか、あるいはいかにしてそれが侵食されていくのを防ぐのか、は不透明なままだ。

 トランプ大統領がカーター氏の二の舞になることはなさそうだ。カーター氏以外の近代の大統領に近いように思える。

 たとえば、1948年に行われた選挙で、トルーマン大統領の支持率は約39%だった。しかし、ライバルのトーマス・デューイ候補に一般投票で200万票以上、選挙人票で114票以上の大差をつけて勝利した。トルーマン大統領は主要な州や地区で熱狂的な選挙集会を開いており、選挙期間が終盤に近付くにつれてその度合いはさらに増していった。しかし彼の支持基盤は世論調査の数字にはうまく反映されず、メディアはこれを読み違えた。その結果、寝耳に水ともいえる彼の勝利に、誰もが驚いたのだ。どこかで聞いたことがある話ではないか

 リチャード・ニクソン大統領もまたトランプ氏を彷彿とさせる。在任中のニクソン大統領は、メディアに嫌われていた。彼は偏執的でナルシストで、しばしば度量の狭い男だった。にもかかわらず、ニクソン氏は1972年、一般投票の得票率で22%上回り、選挙人票獲得数500以上というアメリカ史上に残る得票差で再選を勝ち取った。

 周知のとおり、ニクソン大統領は最終的に弾劾の危機に面し、辞任することとなった。しかし、それは彼が最高裁判所に抜本改革を行った後のことだ。最高裁判所はその後、長きにわたり劇的に右傾化した。この点において、トランプ大統領は既に着々と我が道をまい進中だ。

 そしてニクソン大統領同様、トランプ氏が弾劾されるとしても、それは再選を果たしてからの話になるだろう。

 大統領弾劾には議会の過半数の賛成が必要だ。さらにトランプ氏を訴追するためには、上院で出席議員の3分の2以上の同意が不可欠となる。

 ニクソン大統領が弾劾に直面したのは、再選挙で大勝利したあとでさえ、民主党が両議院を支配していたからだ。クリントン大統領は1998年共和党制の下院で弾劾されたが、上院での共和党議席が55議席にとどまっていたため、訴追は見送られることとなった

 共和党員が大量に脱落しない限り、民主党が単独で大統領罷免に必要な3分の2以上の議席を上院で獲得し、トランプ氏を弾劾するといった立場になることはないだろう。 2018年に行われる選挙でもこの現実は変わらないはずだ。

 つまり、トランプ氏は最初の任期を生き残り、再選される可能性が高いと予想できる

 ジョージ・W・ブッシュ氏の例を考えてみよう。ブッシュ氏はトランプ大統領同様、一般投票では負けたものの、その後選挙人投票で勝利し、大統領に就任した。大統領在任中、ブッシュ氏の政策は、選挙キャンペーン時の公約から大きく外れていた。彼は恥ずべき失敗を重ねた。彼は無知であり、国のリーダーにふさわしくない、と広く批判された。人選が適切だとは言えない顧問に大きく頼らねばならない状況で、彼は現代アメリカ史上最悪の外交政策を指揮し、そして失敗した。大統領在職中に彼が行ったことの多くは、法的にも疑念の余地が残る。しかし、彼は2004年、健全なる350万票を得て、再び大統領の座を勝ち取ったのだ。その理由の1つは、民主党側の候補にジョン・ケリー氏が指名されたことだ。

 ケリー候補は広い見識を持ち、大統領としての資質も高かった。しかし、いかんせん彼はカリスマ性に欠けていた。彼の政治アプローチは慎重で実利的だったが、それがブッシュ氏と比較すると弱気で優柔不断だと映ったのだ。ブッシュ氏の長年にわたる在職期間中にこの問題は悪化し、ブッシュ反対派の多くが彼を「フリップフロップ(朝改暮変)」だと強く主張し、確固たる信念や、決意、展望がないことを示した。

 2020年の総選挙で、民主党が単純に誰か「成熟した大人」を指名することで勝とうと考えても、それではまた黒星が一つ増えるだけだ。

 トランプ氏を第二のジミー・カーターにするなら、政権の失敗を待つだけでは不十分だ。民主党が彼を追い落とすなら、新たなロナルド・レーガンを生み出す必要がある。しかし今のところ、先行きはあまり明るくない

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by isshi via Conyac
photo Gino Santa Maria/shutterstock.com
The Conversation

Text by The Conversation