日本がロシアとG7の橋渡し役に? 独自の対ロ外交を展開する日本に期待の声も
G7伊勢志摩サミットの開催が近づくなか、日本とロシアの政治交流が活発化している。過去2年のG7サミットでは、ロシアへの制裁がG7の方針として確認された。今月初め、安倍首相は今回のサミットの下準備として、ヨーロッパ、ロシアを歴訪したが、ロシアではプーチン大統領と首脳会談を行い、新たな協力計画を提案した。一部の専門家は、こうした点から、日本が事実上、G7の制裁スクラムから脱却したとみなしている。日本がロシアと親和な関係を築こうとしていることは、欧米にとっても有益だとみなす論者もいる。
◆日本とロシアの政治交流が活発化
安倍首相は6日、ロシア・ソチを訪問し、プーチン大統領と首脳会談を行った。両首脳の会談はこれで13回目。この訪問について、アメリカのオバマ大統領は2月に電話首脳協議で「時期を考えて欲しい」「ロシアに行くなら、サミット後にしてほしい」と懸念を表明していたが、首相はそれを押し切った。
テンプル大学ジャパンキャンパスのジェームズ・ブラウン准教授(政治学)、ロシア・極東連邦大学のアンドレイ・コジネッツ准教授(国際関係)の両氏は、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院東アジア経済研究所のウェブサイト「東アジアフォーラム」に発表した論考で、日本の外交政策の2つの最も顕著な特徴は、慎重さ、および米との同盟であり、今回の訪ロは日本らしからぬ大胆な行動だと語っている。
この会談で、安倍首相はプーチン大統領から、9月2~3日にウラジオストクで開かれる「東方経済フォーラム」に招かれた。両首脳はその際に再び会談を行うことで合意した。9月2日は日本が降伏文書に署名した日で、ロシアでは第2次大戦終結の日とされ、北方領土問題にも深く関わる象徴的な日であることを、NHKの石川一洋解説委員は指摘している。
さらに、プーチン大統領は年末に日本を訪問し、首脳会談を行う予定だと大統領の側近が17日明らかにしている(ロイター)。
また今月16~18日にはロシアのユーリ・トルトフネフ副首相が来日し、日本の政府、経済界の代表と会談を行った。
◆ソチでの首脳会談の成果とは?
会談では、両首脳の間で北方領土問題について突っ込んだやり取りが行われた、と外務省は伝えている。首相は会談後、「平和条約については、今までの停滞を打破する突破口を開く、という手応えを得ることができたと思う」、「今までの発想にとらわれない、新しいアプローチで交渉を進めていくということになる」と記者団に語っている。
しかし、ブラウン、コジネッツ両氏は、北方領土問題に関して中身のある合意はなかったため、安倍首相の楽観を支える根拠はほとんどないように思われる、と述べている。その一方で、両氏は、経済協力では本物の進展があった、と述べている。安倍首相は会談で、経済を中心とした8項目の協力計画を提示した。これに対し、プーチン大統領からは高い評価と賛意が表明されたという(外務省)。
両氏は、日本には経済協力を領土問題でのロシアの譲歩を引き出す手段として用いる意図があると言及したが、その実効性については懐疑的なようだ。それでも日本には、東アジアにおける安保戦略上からも、ロシアとの友好な関係を築く動機があることを両氏は説明している。その観点からすれば、領土問題で進展がなかったとしても、今回の訪問は失敗ではなく、ロシアとのより堅固な長期的関係を追求する上でプラスとなりうる、という見方をしている。
中国の台頭や北朝鮮の核・ミサイル計画など、東アジアで日本が置かれている状況を考えると、隣国であるロシアと、北方領土問題・平和条約締結の交渉を進めながらも、経済協力などで関係強化を先行させることには理がある。
◆日本はG7の制裁の「スト破り」?
しかし日本のそんな動きは、ロシアへの制裁継続派の国々からは、歩調を乱す行為と取られる恐れがある。ブラウン、コジネッツ両氏は、ソチの首脳会談の結果について、全体として日本よりもロシアが満足していそうだと語っている。安倍首相の訪問で、経済関係強化の見込みが強まったばかりでなく、対ロシアでのG7の政策の統一性に重大な疑念が持ち上がった、と両氏は理由を説明している。
ロシア政府系メディアのスプートニク日本では、2人の専門家がよりはっきりした物言いをしている。ロシア科学アカデミー極東研究所日本研究センターのワレリー・キスタノフ所長は、「事実上、安倍首相は現在、G7にとって『スト破り』となっている。安倍氏は共通の体制から抜け出して、ロシアへの制裁や圧力政策を無視した」との見解を語っている。
アレクサンドル・パノフ元駐日ロシア大使は、ソチ訪問での協議について、「日本は事実上、公式には述べられなかったものの、西側の対ロシア制裁システムから抜け出した」との見解を示している。安倍首相が提示した8項目の中に、原子力などの先端技術協力と、極東地域でのインフラ整備での協力が含まれている点を、氏は根拠としているようだ。氏によれば、これらは「西側の制裁下に置かれた分野」であるという。パノフ氏は、今年、両国の政治的対話はかつてなかったほど集中的に行なわれるだろうと予言している。
◆欧米もそろそろロシアと関係修復しないとまずくなる?
日本がロシアとの関係強化に動いていることについて、欧米にとってもメリットになりうる、という方向の議論を展開しているのが、米外交問題評議会発行のフォーリン・アフェアーズに掲載されたジョシュア・ウォーカー博士、アズマ・ヒデトシ氏の論考だ(ウォーカー博士は米ジャーマン・マーシャル基金の日本イニシアチブのリーダーであり、コンサルティング会社APCO Worldwideの世界プログラムのディレクター、APCO研究所所長。アズマ氏は同研究所の外部研究員)。
両氏によると、G7の欧米各国は現在、東ヨーロッパのウクライナ問題に集中して、ロシアへの制裁を行っているが、その間にもロシアは、その他のユーラシア全域で影響力を及ぼし、さらにそれを拡大している。欧米各国はロシアを孤立させる態勢を取ることによって、逆にロシアに対する影響力を失っている、というのが両氏の見方だ。
そこで、欧米各国はロシアのヨーロッパ側ではなくアジア側に目を向け、そこでの協力をきっかけにロシアとの関係を再び構築する、という筋書きを両氏は描いてみせる。日本はアジアやその他の場所で、ロシアと欧米各国間の協力を促進するのに良いポジションにいる、と両氏は語っている。安倍首相はプーチン大統領と良好な関係を保っており、対話のチャンネルが開かれている。また日本はウクライナを支援している。両氏は、日本が誠実な仲介人としてロシア、ウクライナと同時に交渉できることは、欧米各国にとって、ロシア政府と今後の関係を改善する上で大きな利点である、と語っている。そして、伊勢志摩サミットは、欧米各国と日本が、ロシアと協力できる分野を見つけるためのちょうどよい機会となる可能性があるとして、日本が、ロシアとG7の関係修復のイニシアチブを取ることの期待を表明している。