なぜ今、日露首脳会談? 実現に意欲の安倍首相、大局的な狙いを海外メディアが考察
安倍首相は4日の年頭記者会見で、北方領土問題解決のためには日露首脳会談が必要だという認識を示した。この発言を受け、海外メディアは北方領土問題の今後の進展について考察している。
◆いまだに棚上げの日露平和条約
1952年発効のサンフランシスコ平和条約により、日本と連合国諸国の戦争状態は終了したが、日本とロシア(当時はソ連)の間で平和条約は結ばれなかった。1956年の日ソ共同宣言により、戦争状態の終結、国交回復は実現したが、日本が北方領土と呼ぶ、国後、択捉、歯舞、色丹の4島を巡る領土問題で行き詰ったため、平和条約は棚上げとなり、締結後に歯舞、色丹を返還することを共同宣言に盛り込むことで終わった。
テンプル大学日本キャンパスの国際関係の専門家、ジェームス・D・J・ブラウン氏によれば、北方領土は当時のソ連が第二次世界大戦の結果として合法的に占領したものというのが、ロシア側の見解だ。これに対し日本側は、終戦間際に「日和見的に」参戦したソ連が、すでに敗戦していた日本から奪った領土だと主張。平和条約締結に際し、善意で2島返還を行うというロシアの提案では不十分とした日本が、4島返還を求め続け、進展がなかったと同氏は説明している。(ドイチェ・ヴェレ、以下DW)。
◆北方領土返還は困難
カーネギー国際平和財団のジェームス・ショフ氏は、日露両国の首脳の政治的リーダーシップが安定している今が、問題解決の時だと安倍首相は見ていると説明。しかしそのかじ取りは難しいと述べる(DW)。
米ウェブ誌『Vice』 の編集者、ライアン・フェイス氏によれば、オホーツク海は、ロシアの原子力潜水艦にとっては軍事上の要所であり、北方領土を含む千島列島は太平洋との境界に位置するため、敵の侵入を困難にする天然の要塞となっている。そのため北方4島返還という選択肢はロシアにはないが、国後、択捉を保持し、その東側にはみ出した歯舞、色丹を返還すればオホーツク海の支配は保てるため、平和条約締結と引き換えに、ロシアはそこまでは譲歩すると同氏はみている。しかし、問題は一貫して4島返還を求める日本のナショナリストたちで、ロシア側の譲歩は受け入れられないだろうと述べている。
また、『Observer Research Foundation』の研究員、ヴィンドゥ・マイ・チョタニ氏は、日露両国のナショナリズムが、解決を妨げると指摘。北方領土で譲歩することは、安倍首相にとって国内で面目を失うことになり、さらには尖閣、竹島問題にも影響すると述べる。また、ウクライナ問題やその制裁に直面するプーチン大統領にとってナショナリズムの維持は必要不可欠であり、穏やかとは言え日本がロシアに制裁を課している間は、日本との交渉はないだろうと述べている(DW)。
テンプル大のブラウン氏は、ロシアは第二次大戦の戦利品である領土を手放すことはない、日本はもはやかつてのような強い経済力を持っていないとロシアは見ている、日本はアメリカの「厳しい管理下」に置かれているとロシアは思っている、すでに北方領土には多くのロシア人が定住している、という4つの理由から、日本の誘いにロシアは乗らないと見ている(DW)。
◆安倍首相の狙いは?
このような厳しい状況にも関わらず、海外メディアは、なぜ今安倍首相が日露首脳会談を求めるのかに注目している。ブラウン氏は、安倍首相の狙いは、領土問題解決もあるが、間違いなくロシアを中国から遠ざけることだと述べ、緊密な中露関係こそが、中国を脅威とする日本にとっては障害になるとしている。そのため安倍首相は、できるだけプーチン大統領と会い、個人的信頼を築こうとしてきたと述べている(DW)。
『Vice』のフェイス氏は、本格的な戦争の際に、日本にとって北方で中露の両海軍と戦うことは困難だとし、ロシアと協力、または少なくともむき出しの敵意を避けることで、戦略的によいポジションを築くことが出来ると指摘する。日本にとって、ロシアと交渉を続けることは、有事の際の切り札にもなり、当座のコミュニケーションの窓を開いておくための言い訳にもなると述べている。
一方APは、領土問題への安倍首相の言及は、7月の参院選対策の一環だと見る。経済回復のペースは遅く、インフレターゲット、賃金、消費とも低迷中だが、これまで安倍首相は外交面では大きな成果を見せており、選挙を前に外交で点を稼いで支持を集めるのが狙いだと読んでいる。