安保法案衆院通過:“侵略償うため平和主義採用した社会”に変化 海外も注目
安全保障関連法案(安保法案)が衆院で可決され、参院に送られた。同法案は、自衛隊法、PKO法などすでに存在している10件の法律の改正案をひとまとめにした「平和安全法制整備法案」と、新たに制定する「国際平和支援法案」の11件を1セットとし、5月に内閣閣議決定されたもの。法案に反対する群衆が国会を包囲する中、16日、野党が強行採決に抗議して欠席し、与党の賛成多数で衆院を通過した。国民の多くは議論や説明が不十分ととらえている。海外主要メディアは同法案を巡る世論や対外関係等をどう伝えたのだろうか。
◆安保法案の強行採決を巡る海外の反応
「国際平和支援法案」は憲法9条の規定があるため、武力行使はしないものの、集団的自衛権による後方支援を容認し、「平和安全法制整備法案」は自衛隊の在外邦人救助や米軍への駆けつけ援護、さらに米軍以外の関係国への支援や関係国の施設使用を可能にする。
ロイター(7月16日付)は、「第二次大戦後初めて海外に軍隊を派遣できる法案を、反対意見や安倍首相の評価を傷つける可能性があるのにもかかわらず、採決を強行した」「国会周辺は台風の嵐の中、2万人の抗議の群集であふれ、それは日米安保改定への抗議デモで失脚した安倍首相の祖父・岸信介を連想させた」「中国外務省は、日本の戦後の平和構築への歩みに問題を投げかけるもので、歴史の教訓に学ぶよう促した」などと伝えた。
一方、フィナンシャルタイムズ(7月17日付)は、同法案通過後、東アジアの不安定化への中国の懸念を払しょくし、良好な関係を維持する意欲を伝えるため、安倍首相が中国に谷内正太郎氏を特使として送ったことを伝える。谷内氏は、年内に東京で安倍首相と習近平主席が会談することを働きかけたものと見られている。谷内氏は南シナ海における埋め立て・基地建設によって、緊張が高まっているという理解を中国側と共有したとも報じられている。
◆安倍政権の支持率急降下にも対抗できる野党が不在
ニューヨークタイムズ(7月18日付)は、「衆院採決は、戦時の侵略を償うために平和主義を採用してきた社会における激しい論争の集大成で、日本を世界的な問題でより大きな役割を果たす“普通の国”にすることにキャリアを捧げてきた保守政治家・安倍首相の重要な勝利だった」と報じた。アメリカは同法案を支持しているとしながら、ワシントンの外交問題評議会上級研究員シーラ.A.スミス氏の、参院で法案審議される間に反対意見が成長する可能性は十分にあり、「同盟の協力を巡って日本国民が深刻に分裂するのは、アメリカの政治家が望む結果ではない」という懸念を伝えている。
ウォールストリートジャーナル(7月20日付)は、世論調査による安倍政権支持率が、毎日新聞調査では35%、共同調査では37.7%と、いずれも2012年冬の第二次安倍政権発足後最低になったことを伝えた。また同紙は、毎日新聞の調査で、安保法制については、集団的自衛権の行使を可能にする法整備に62%が反対し、同法案が外国による日本への攻撃を防ぐのに役立つとした人は28%しかいないが、自民党高村副総裁が「支持率が下がっても日本のために必要なことはするのが党の伝統」と述べたことも伝えている。そうした態度は、日本に強力な野党が存在しないためで、共同通信の調査では自民党支持率が5%下落しても、民主党支持率は1.1%上昇して11.2%になっただけだと論評している。