安保法制:「9条はずっとゆるく解釈されてきた」と英誌、自衛隊の存在を指摘
安全保障関連法案が15日、衆院平和安全法制特別委員会で可決された。自民・公明の与党単独での強行採決だった。16日に衆院本会議でも可決されれば、9月27日までの今国会での法案成立がほぼ確実となる。多くの海外メディアは、国内報道各社の世論調査の結果を踏まえ、国民の過半数が反対する中での可決となったと報じた。
◆世論調査が示す安倍政権と国民との温度差
ロイター、ブルームバーグ、AFPは、国民と安倍政権の間のギャップが拡大していることに注目したようだ。AFPは、国民と国会議員の反対が高まっているにもかかわらず、安倍首相は法案を可決させた、と報じた。ロイターは、一般有権者の過半数が反対しているにもかかわらず、日本の安保政策の劇的な変更を求める法案が可決された、と報じた。
ロイターが記事で引用しているのが、朝日新聞が13日に発表した世論調査だ。それによると、安倍内閣の支持率は39%、不支持率は42%、また安保法案への反対が56%だった。ブルームバーグは、法案をめぐる何週間もの論争によって、首相への支持が損なわれた、と語る。報道機関の世論調査では、有権者の過半数が集団的自衛権の行使容認などの変更に反対しており、いまや内閣への不支持率が支持率を上回っている、と伝えた。
また、ロイターとブルームバーグは、安保法制のみならず、安倍首相にはこれからも、原発再稼働や終戦70年談話の発表、新国立競技場の建設費用高騰など、難しい課題が待ち受けている点に注意を向けている。
早稲田大学の田中愛治教授(政治学)はロイターに、「首相の支持率は、法案の可決後、当然下降するでしょう」、「安倍内閣は、その後に支持を回復させるため、ニュースバリューのあるなんらかの政策を考慮していると思います」と語っている。
果たして、15日の可決後には、政府が新国立競技場の計画を見直す検討に入ったことが明らかになった。
◆安保法案は憲法9条の平和主義に背くものと見なす世論
AFPは、安保法案について、70年間に及ぶ日本の平和主義に背くものだと多くの日本国民が語っており、国民の間で不安が広がっているにもかかわらず、安倍首相にとってはかなり特別なプロジェクトだ、とし、そのギャップを浮き彫りにした。
AFPは、強固なナショナリストの安倍首相は、日本の軍事態勢の正常化と呼ぶものを強く主張している、と語る。一方、安倍首相の安保政策に反対する国民らは、平和主義の方針に深く執着している、としている。
エコノミスト誌は、法案可決前の11日の記事で、安倍首相は日本をもっと普通の軍事国にしたいと思っているが、多くの国民にその必要性を納得させられていない、と語っている。平和憲法の束縛を外すという安倍首相が長く大切にしてきた目標は、国内で不評であることが判明しつつある、と、同誌もまたギャップに注目している。
安保法案をめぐる議論の多くは、憲法、特に9条に関連したもので、多くの日本人は9条を重んじている、と同誌は語る。けれども、安倍首相が9条に違反していると責める人たちは、ずっと以前から9条はゆるく解釈されてきたという事実を無視している、と指摘。例えば、9条は戦力の不保持を定めているが、日本には1950年代から自衛隊が存在している、と同誌は語る。
◆中国を刺激しないよう気遣い?国民を納得させる説明が安倍首相の責務
ブルームバーグのオピニオンサイト「ブルームバーグ・ビュー」の可決前の論説は、特に安倍首相による説明が不十分だという点を重視している。安倍首相は安保法案は日本の安全保障に必要不可欠だと語っているが記事は、それは正しい、と首相に賛意を示している。しかしそれでも、混乱し怒っている一般国民に、自分の主張の正しさをしっかりと述べることは、安倍首相の責務だ、と断じている。
ブルームバーグ・ビューは、首相は現在から9月末までの時間を、新法案はほのめかされているよりもはるかに穏当なものだということを、国民にはっきり分からせるために使うことができる、と語っている。一方で、首相が法案が関わってくるかもしれない場面についてあいまいでいるせいで、まさに国民の最悪の懸念を助長している、とも指摘している。
このあたりの説明はエコノミスト誌が詳しい。集団的自衛権の行使を必要とするかもしれない具体的状況を、安倍首相が説明するのを嫌がっていることが、首相が法案を受け入れさせるのに困難を抱えている理由の一つである、と同誌は指摘する。もし首相が、中国の振る舞いが日本の懸念の原因かもしれないとほのめかすだけでも、中国は激怒するだろう、と同誌は語る。今のところ安倍首相は可能性のある例をたった一つしか示していない、同盟国と協力して(機雷除去により)ホルムズ海峡の封鎖を解除することだ、と語っている。
◆「安倍首相の真の問題は国民の信頼の欠如」
ブルームバーグ・ビューは、安保法案への国民の反対について、より根底的な原因とその対処法を示している。つまるところ、安倍首相の真の問題は、国民の信頼の欠如である、と記事は断言する。首相は強硬路線のナショナリストだという評判のせいで、有権者は新法案が首相に与える権力を首相が拡大解釈するだろうと予想している、というのだ。
この流れを変える絶好の機会が8月の終戦70周年談話だ、としている。安倍首相からの心からの悔恨を示すメッセージは、北東アジアの国際関係を長らく悩ませてきた歴史的緊張を緩和することに大いに役立つかもしれず、また、首相のタカ派路線に対する日本国民の懸念も軽減するだろう、とブルームバーグ・ビューは語っている。