安倍政権のメディア支配? 沖縄での首相への野次、「報道されなかった」と英紙

 安倍首相が6月23日の沖縄全戦没者追悼式で、一部の参列者から野次を浴びた事が海外メディアの注目を集めている。英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、これを国内主要メディアが報じなかった点に注目。式典の2日後に開かれた自民党若手議員の勉強会で、出席者の一人が「マスコミを懲らしめるには広告料収入をなくせばいい」と発言した件も絡め、「安倍政権によるメディア支配」を論じている。台湾メディアも、中国紙や国内左派メディアの安倍批判と共に、“野次事件”を取り上げている。

◆“帰れコール”が報じられなかったのは「メディア支配」の証拠?
 戦没者追悼式の後半で安倍首相があいさつに立つと、参列者の一部から「主戦論者!」と野次が飛び、「帰れ」コールが上がった。朝日新聞や日刊ゲンダイなどの一部の国内メディアが、首相の前にあいさつした翁長雄志沖縄県知事が基地問題で持論を展開した件と共に、この野次の件を伝えている。その一方で、FTは、NHKや読売新聞といった主要メディアはこれを全く報じなかったと指摘する。

 FTは「そのような野次は礼儀正しい日本では非常に異例だ」としたうえで、「反安倍勢力の見解」として、次のように記す。「多くの報道機関が(野次を)無視する判断をしたのは、安倍氏がいかに日本のプレスを怯えさせる、もしくは取り込むことに成功したかを示す」。同紙は、安倍首相がNHK会長に自身を支持する籾井勝人氏を指名したことや、朝日新聞の慰安婦報道に対する「攻撃」についても、「日本の報道の自由を脅かしたと受け止められた」と記す。

 同記事は、安倍政権のメディア支配が“勇み足”をしたという観点で、自民党若手議員の勉強会で、大西英男衆院議員が「マスコミをこらしめるには広告収入をなくせばいい」と発言した件にも触れている。これがメディア報道で公になると、自民党は、勉強会を開いた青年部のトップを更迭するなど火消しに追われた。FTは、「安倍政権の2年半に及ぶ安定の理由の一つは、メディアの管理に成功したことだ」としつつ、大西発言が表に出たのはその支配力が弱まってきた証拠だとする識者の意見を紹介。安保法案を巡り、支持率が落ちてきていることがその背景にあると同紙は見ているようだ。

◆中国紙は「70周年談話」で安倍首相批判
 中国メディアも、演説を巡って安倍首相批判を強めている。中国共産党機関紙・人民日報傘下の英字紙『グローバル・タイムズ』は、今夏の戦後70周年式典で予定されている談話の内容について、安倍首相が閣議決定は必要ないと述べたと日本メディアが報じたとし、それを批判する論説を掲載している。

 論説は、安倍首相は70周年談話を「個人的な意見」とすることで、「植民地支配と侵略に対する反省と謝罪」を行わない言い訳にするつもりだと主張。その狙いは、「日本に侵略された国々にいくらか配慮した」ことを示すためだという。しかし、それはかえって「前任者たちの演説に比べて重みのないもの」にし、「国際社会の疑念の引き金になる」と牽制する。

 論説の筆者は、「東アジア諸国では、自省は文化の重要な要素だ」とし、70周年談話を閣議決定を経た政府見解としたうえで、「反省と謝罪」の言葉を盛り込むことを求める。そして、「安倍がまだこの問題を無視し、日本の戦時中の過去について曖昧な言葉を発するのなら、近隣諸国の感情を傷つけ、争いに火をつけるだけだ」と記している。

◆台湾メディアも中国紙や国内左派メディアの安倍首相批判を取り上げる
 一方、台湾メディア『Want China Times』は、グローバルタイムズが別の記事で、「安倍首相が中国との戦争を計画していることを認めた」と主張していると報じている。その記事は週刊現代の記事を引用し、首相は国内メディアのトップを都内の高級ホテルに集めて私的な会合を開き、民主党の岡田克也代表を名指しで強く批判した後、集団的自衛権の行使容認の動きは中国を意識したものだと認めた、と伝えている。また、その“中国との戦争準備”は、中国が南シナ海で示している攻撃的な態度に対するアメリカの作戦に歩調を合わせたものでもある、と首相は付け加えたとされている。

 『Want China Times』はグローバルタイムズを「攻撃的なまでにナショナリスティックな中国のタブロイド」と表現し、同紙の論調をやや批判的に受け止めているようだ。

 また『Want China Times』は併せて、国内左派メディアも、韓国との歴史問題やTPP問題を巡って安倍批判を強めていると記す。そして、「それら(のメディアの主張)が本当かどうかは別として、安倍首相が反対勢力の非難によって難しい1ヶ月を過ごしたのは確かだ」と、沖縄での野次事件にも触れている。

Text by 内村 浩介